G-4.建物の設計・監理上の欠陥

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建物を建築する場合、設計図がなければ、実際の工事に着手することができません。設計図については、建築士にその作成を依頼することになると思いますので、その設計図自体に計算間違い等が含まれていた場合、建築士に対して責任を追及することになります。
また、設計図を作成すれば建築士としての仕事が終了という訳では無く、実際に建物の建築工事が、設計図通りに行われているかどうかを確認することも必要になります。このような建築士の義務を監理義務と言います。
この監理義務に違反した結果、実際に建築された建物が設計図の内容と異なるものとなってしまった場合であっても、建築士の責任を追及することが可能となります。
今回は、建物の設計・監理上に欠陥があった場合の責任について解説させていただきます。

1.法律上の定め

建物の建築にあたっては、設計図の作成は必須ですし、その設計図に沿って実際の工事が行われなければ、設計図を作成した意味がありませんから、工事を監理する必要もあることは自明のことと思います。
では、設計図の作成や工事の監理について、法律はどのように定めているのでしょうか。

建築士法

第1条
この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もつて建築物の質の向上に寄与させることを目的とする。
第2条
1項 この法律で「建築士」とは、一級建築士、二級建築士及び木造建築士をいう。
6項 この法律で「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。
8項 この法律で「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいう。
第38条
1項 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3号 第3条第1項(同条第2項の規定により適用される場合を含む。)、第3条の2第1項(同条第2項において準用する第3条第2項の規定により適用される場合を含む。)…の規定…に違反して、建築物の設計又は工事監理をした者

建築基準法

第5条の6
1項 建築士法第3条第1項…、第3条の2第1項…に規定する建築物…の工事は、それぞれ当該各条に規定する建築士の設計によらなければ、することができない。
4項 建築主は、第1項に規定する工事をする場合においては、それぞれ建築士法第3条第1項、第3条の2第1項若しくは第3条の3第1項に規定する建築士…である工事監理者を定めなければならない。
5項 前項の規定に違反した工事は、することができない。
第101条
1項 次の各号のいずれかに該当する者は、100万円以下の罰金に処する。
1号 第5条の6第1項から第3項まで又は第5項の規定に違反した場合における当該建築物の工事施工者

規定の内容が細かいので省略しましたが、建築士法第3条は、1級建築士、2級建築士等、特定の建物の設計等について必要な資格の内容を定めたものです。ですから、建物の建築にあたって、設計図を作成させる場合や、工事監理を行わせる場合には、建築士に依頼する必要があります。
建築士以外の者がそのような業務を行った場合、その者に対する刑罰が建築士業法上予定されていることに加え、工事施行者に対する刑罰も予定されているのです。

2.設計・工事監理に関する契約

以上のとおり、設計・工事監理については、建築士に依頼する必要があります。もっとも、建築士としての資格を有していれば足り、どの建築士にどこまで依頼するのかは建築主の自由です。
したがって、設計図の作成と工事監理について同じ建築士に依頼することも、別々の建築士に頼むことも可能ですし、実際に工事を請け負う施行業者に全てを依頼し、同社に所属する建築士に設計・工事監理を行わせることも可能です。
一方で、どのような契約にするのかによって、その契約の性質が変わることになります。その契約が請負契約としての性質を有するのか、委任契約の性質を有するのか、又はその他の類型の契約としての性質を有するのかによって、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の成否や解除の可否等に影響を及ぼしますので注意が必要です。

3.設計について

(1)契約の成立時期について

建築士に設計のみを依頼する場合には、その建築士との間で設計契約を締結することになります。
設計のみの依頼を受けた場合には、作成した設計図を建築主に交付すれば、建築士としての仕事は終わりになります。
一方で、工事監理契約や建築自体の契約と異なり、設計を依頼する段階においては、建築主としても依頼内容が定まっていない場合が多く、見積りの作成のみを依頼するようなケースも少なくありません。このような場合、建築士との間で設計契約に関する契約書が作成されないままに交渉が進められることも多く、最終的にその建築士に設計をお願いしないこととなった場合、建築士に対する報酬の支払いの点でトラブルになることがあります。
この点について、交渉が煮詰まる前の段階で作成された概略図を渡しただけでは、建築士の報酬は発生しませんが、東京地判昭和41年9月11日(判例時報465号49頁)は、報酬についての合意がなされていない事案について、「原告が建物の建築を業とする株式会社(商人)であり、被告から本件新築工事費の見積を明示的に、また右工事の設計を黙示的に依頼を受けて承諾し、右約旨にしたがって設計図面を被告に交付したことは前示のとおりであり…原告がその営業の範囲内の行為として被告のため本件設計をして該設計書図面を作成交付したことが認められるので、原被告間に報酬契約の存在が認められない本件においても、原告は被告に対し相当額の報酬請求権を有する」と判示しており、具体的な報酬についての合意がなくても、設計の対価としての報酬を得られることもあるのです。
不要なトラブルを避けるためには、どの段階で報酬が発生するのかについても、交渉の際には明示しておく必要があるものといえるでしょう。

(2)設計の瑕疵

設計契約のみを建築士に依頼する場合、設計図を交付することによって、その建築士の仕事は終わりになります。
しかしながら、作成された設計図が不十分なものであった結果、建築された建物に欠陥が生じた場合、設計者である建築士にも責任が発生します。
不十分な設計が行われた事例として、東京地判平成20年1月25日(判例タイムズ1268号220頁)は、設計者が防水や構造に関する施工方法を図面や仕様書で指示していなかったことによって生じた建物の欠陥について、設計者に不法行為責任を認めています。
このような事例は、設計者に法的な責任が生じることが分かり易いように思います。もっとも、どのような欠陥があれば、設計者の責任が生じるのかという点については、建物の基本的な安全性を害するかどうかという点から判断せざるを得ませんから、一律に決めることは困難です。
また、客観的な安全性を欠くとは言えない場合であっても、設計の内容が建築主の意向に沿わなければ、設計者の責任は生じ得ます。
この場合、設計者は、建築主が設計契約の際に求めた内容を履行していないことになりますから債務不履行の責任を求められることになりそうです。
一方で、建築主の無茶な注文をすべて聞かなければいけないという訳ではありません。東京地判昭和50年4月24日(判例時報796号63頁)は、「建築家は出来得る限り建築主の希望に添って建築設計すべき義務があるが…、建築主と雖も設計者のかかる法的に規制された基準に準拠しつつ、しかもなお設計者の専門的な技術を尊重してその仕事を協力すべき義務があると言わねばならない。そうすると、本件のような請負契約の遂行は、建築設計者と建築主の前記双方の義務が密接不可分に結びついてその円滑な相互協力のもとになされるものと言うべきである…本件建物の建築設計者たる原告代表者は…希望に基きそれに添った設計図の作成に努力していたものと認定するのが相当であるから、被告が希望する外観の建築設計図を作成しないとする被告主張のような債務不履行はない」と判示しています。
とは言え、この点についても、建物を建築した後の紛争になってしまえば、トラブルとなった後のリスクは甚大なものになりますから、できる限り建築物の完成イメージについても、契約交渉段階で具体的にしておくべきでしょう。

4.工事監理について

工事監理者となる者は、実際の建築工事が設計図通りに行われているかどうかを監督する義務があります。当然、ただ見ているだけという訳ではなく、建築士法第18条3項は、設計図とおりに工事が行われていないと判断した場合には、工事施行者に対して是正を求めることに加え、施行者が従わない場合には、そのことを建築主に報告する必要があるのです。
一方で、設計図に問題がなく、施行者が設計図通りに建物を建築した場合、工事監理が十分に行われていなかったとしても、事後的に工事監理者の責任が追及されることはほとんどありません。
工事監理者の責任が追及されるのは、工事管理が十分行われなかった結果、建物に何らかの欠陥が生じた時のことになります。
建物に欠陥が生じている場合の一時的な責任は、そのような欠陥を生ぜしめるような建築を行った施工業者になりますが、そのような欠陥を生ぜしめるような工事を看過したことを理由に、工事監理者にも責任が認められるのです。
一方で、工事監理者の責任は、「工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに工事施工者に注意を与える等の措置を講ずべき注意義務」ですから、このような注意義務を果たしていると認められる場合には否定されることになります(大阪高判平成元年2月17日 判例時報1323号83頁)。
ですから、その欠陥が建物の基礎的な構造上の欠陥等である場合には、注意義務を十分に果たしても、そのような欠陥を生ぜしめる工事を是正できなかったということは考え難く、工事監理者の責任は認められ易くなるといえます。

5.まとめ

建物を建築する際に、設計・工事監理は必要不可欠なものと言えます。一方で、設計の段階から適切なものが作成されていない場合には、建物建築の第一歩から躓いてしまうことになります。
また、報酬等のトラブルが生じた場合には、実際に建物の建築に取り掛かる前に、余計な労力が生じてしまうことになります。
工事監理についても同様です。工事監理が適切になされなかった結果、欠陥を有する建物が完成してしまうと、その後にその建物を補修するには大きな金額が必要となってしまうこととなります。このリスクは極めて大きなものです。
設計・工事監理については、冒頭で述べた通り、別々に契約が締結されることもありますから、その場合には各担当者間でしっかりと認識を共有しておく必要がありますし、同じ会社(人物)が担当する場合には、相互の監督が慣れ合いにならないように注意する必要があるでしょう。

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