日照をめぐる近隣トラブルを徹底解説

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建物自体の欠陥ではありませんが、近隣との関係でトラブルになる一つの原因として日照トラブルが挙げられます。
新しい建物が建設されることによって、従前から周辺に居住していた方々の住まいの日照が遮られてしまう場合、建物が建設されてしまえば、その建物が取り壊されない限り、永久に日光が届かない場所となってしまいかねません。したがって、そのような不利益を被る方々からの抵抗は根強いものが想定されます。
したがって、日照トラブルのリスクが認められる場合には、できる限り事前に排除しくことが望まれます。

1.日照は法律上保護に値する

日照とは、直射日光が当たっている状態のことを意味します。このような状態が、単なる事実上のものに過ぎないのか、法律上も保護されるべきものなのかについて、最初に検討する必要があります。
この点について、最高裁昭和47年6月27日判決(民集26巻5号1067頁)は、「居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であり、それが他人の土地の上方空間を横切ってもたらされるものであっても、法的な保護の対象にならないものではなく、加害者が権利の濫用にわたる行為により日照、通風を妨害したような場合には、被害者のために、不法行為に基づく損害賠償の請求を認めるのが相当である。」として、法律上も保護され得る権利であることを認めています。

一方で、この最高裁判決は、「日照、通風を妨げた場合は…それだけでただちに不法行為が成立するものではない。…権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたと認められるときは…不法行為の責任を生ぜしめる…」と判示しています。
したがって、日照が遮られたというだけでなく、その程度が著しく大きいような場合等について、日照の妨害を理由に、損害賠償責任等が認められてしまうことになります。

2.日照に関する法律

(1)日影規制

上述した最高裁判例は、日照が遮られたことを理由に、民法上の不法行為が成立するかどうかが争われたものです。
日照等を保護するために制定された法律があった場合、当該法律に違反することによって、不法行為とは別の問題が生じ得ます。日照等を保護するための法律として、例えば、次のような条文が存在します。

建築基準法

(日影による中高層の建築物の高さの制限)
第56条の2
1項 別表第四(い)欄の各項に掲げる地域又は区域の全部又は一部で地方公共団体の条例で指定する区域(以下この条において「対象区域」という。)内にある同表(ろ)欄の当該各項…に掲げる建築物は、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時まで…の間において、それぞれ、同表(は)欄の各項…に掲げる平均地盤面からの高さ…の水平面…に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える範囲において、同表(に)欄の(一)、(二)又は(三)の号…のうちから地方公共団体がその地方の気候及び風土、土地利用の状況等を勘案して条例で指定する号に掲げる時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならない…。

2項 同一の敷地内に二以上の建築物がある場合においては、これらの建築物を一の建築物とみなして、前項の規定を適用する。

3項 建築物の敷地が道路、川又は海その他これらに類するものに接する場合、建築物の敷地とこれに接する隣地との高低差が著しい場合その他これらに類する特別の事情がある場合における第一項本文の規定の適用の緩和に関する措置は、政令で定める。

4項 対象区域外にある高さが十メートルを超える建築物で、冬至日において、対象区域内の土地に日影を生じさせるものは、当該対象区域内にある建築物とみなして、第一項の規定を適用する。

5項 建築物が第一項の規定による日影時間の制限の異なる区域の内外にわたる場合又は建築物が、冬至日において、対象区域のうち当該建築物がある区域外の土地に日影を生じさせる場合における同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

日照に関する法律として最も気にするべき内容は、上記建築基準法に定められている日影規制の条文かと思われます。この規程は新たに建築する建物によって生じる日陰の観点から、建築に制限を課しています。
なお、建築基準法は非常に複雑な内容を定めています。概要が分かり易いように、細かい規定については省略しておりますので、実際にトラブルに面している方は、法律の原典にあたっていただくか、専門家に御相談いただければと思います。また、制限の詳細については、政令や地方公共団体の定める条例等を確認する必要があります。

(2)北側斜線制限

建築基準法との関係で、日照に関する規制として、もう一つ確認すべき条項があります。それが、北側斜線制限といわれるものです。

建築基準法

(建築物の各部分の高さ)
第56条
1項 建築物の各部分の高さは、次に掲げるもの以下としなければならない。

1号 別表第三(い)欄及び(ろ)欄に掲げる地域、地区又は区域及び容積率の限度の区分に応じ、前面道路の反対側の境界線からの水平距離が同表(は)欄に掲げる距離以下の範囲内においては、当該部分から前面道路の反対側の境界線までの水平距離に、同表(に)欄に掲げる数値を乗じて得たもの
2号 当該部分から隣地境界線までの水平距離に、次に掲げる区分に従い、イ若しくはニに定める数値が一・二五とされている建築物で高さが二十メートルを超える部分を有するもの又はイからニまでに定める数値が二・五とされている建築物…で高さが三十一メートルを超える部分を有するものにあつては、それぞれその部分から隣地境界線までの水平距離のうち最小のものに相当する距離を加えたものに、イからニまでに定める数値を乗じて得たものに、イ又はニに定める数値が一・二五とされている建築物にあつては二十メートルを、イからニまでに定める数値が二・五とされている建築物にあつては三十一メートルを加えたもの

イ 第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内の建築物又は第一種住居地域、第二種住居地域若しくは準住居地域内の建築物(ハに掲げる建築物を除く。) 一・二五(第五十二条第一項第二号の規定により容積率の限度が十分の三十以下とされている第一種中高層住居専用地域及び第二種中高層住居専用地域以外の地域のうち、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内の建築物にあつては、二・五)

ロ 近隣商業地域若しくは準工業地域内の建築物(ハに掲げる建築物を除く。)又は商業地域、工業地域若しくは工業専用地域内の建築物 二・五

ハ 高層住居誘導地区内の建築物であつて、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計がその延べ面積の三分の二以上であるもの 二・五

ニ 用途地域の指定のない区域内の建築物 一・二五又は二・五のうち、特定行政庁が土地利用の状況等を考慮し当該区域を区分して都道府県都市計画審議会の議を経て定めるもの

三 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域若しくは田園住居地域内又は第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域(次条第一項の規定に基づく条例で別表第四の二の項に規定する(一)、(二)又は(三)の号が指定されているものを除く。以下この号及び第七項第三号において同じ。)内においては、当該部分から前面道路の反対側の境界線又は隣地境界線までの真北方向の水平距離に一・二五を乗じて得たものに、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域又は田園住居地域内の建築物にあつては五メートルを、第一種中高層住居専用地域又は第二種中高層住居専用地域内の建築物にあつては十メートルを加えたもの

日影規制以上に、複雑な条文となっておりますので、1項しか挙げておりませんし、その内容についてもかなり省略しております。
ざっくりと説明してしまうと、現存している建物の南側に建物を建設する場合、当該建築物によって現存する北側建物の日照を妨げられないようにするものとなります。

3.日照を侵害した場合のリスク

(1)建築基準法に違反した場合

日照を遮ったことによって、どのような損害が生じたかどうかとは無関係に、法律上の規定に違反してしまった場合には、そのこと自体による罰則に関するリスクを考えなければなりません。
例えば、建築基準法に違反した場合、是正指導等が行われることも想定されるところではありますが、上述した日影規制等との関係においては、当該規制に違反した場合に、刑事罰が科される可能性もあります。
前科がついてしまう可能性については、最優先で排除する必要がありますから、事前に正確に規制内容を把握しておかなければなりません。

建築基準法

第101条
次の各号のいずれかに該当する者は、100万円以下の罰金に処する。
3号 …第56条第1項、第56条の2第1項…までの規定に違反した場合における当該建築物又は建築設備の設計者(設計図書に記載された認定建築材料等の全部又は一部として当該認定建築材料等の全部又は一部と異なる建築材料又は建築物の部分を引き渡した場合においては当該建築材料又は建築物の部分を引き渡した者、設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合(設計図書に記載された認定建築材料等と異なる建築材料又は建築物の部分を引き渡された場合において、当該建築材料又は建築物の部分を使用して工事を施工した場合を除く。)においては当該建築物又は建築設備の工事施工者)

(2)裁判例

では、日照を遮られたとして提訴された場合に、どのようなリスクが生じ得るのでしょうか。
例えば、冒頭で紹介した最高裁判例は、東京高等裁判所昭和42年10月26日判決の内容を是認しており、その内容は「たしかに日照通風悪化により…その価格がある程度低下したことは認めざるをえないとしても、…本件のような場合に加害者の違法性の程度、被害者の受忍の限度いかんにかかわらず常にその全額を賠償せしめるのが妥当かどうかは、当事者双方の利害の調整という面からは疑問がある。」としています。
したがって、不動産価値の下落が認められたとしても、その金額をそのまま賠償しなければならないという事にはならないものと考えられています。

また、日照等の問題によって、どの程度その不動産価値が下落したのかについて正確に算出することは困難です。上述した事案では、そもそも不動産価値の下落の立証が困難であることを理由に、慰謝料として20万円の損害賠償責任のみが認められました。
もっとも、名古屋高等裁判所令和2年7月30日(D1-Law28282701)のように、50万円の慰謝料が、複数の土地所有者との関係で認容されてしまうような事案もありますから、慰謝料で解決できる問題として軽視すべきものではありません。

また、東京高等裁判所平成3年9月25日(判例時報1407号69頁)は、日照阻害の程度が大きい事を理由に、建築工事の一部を禁止する判決を出しています。

4.まとめ

日照の問題は、裁判例においても、慰謝料等の支払のみを命じるものが多く、軽視されがちな問題といえます。一方で、建築基準法では、日照規制に違反した場合に刑事罰を科せる定めを設けていますし、数は多くありませんが、工事の継続の禁止を命じた裁判例も存在します。
途中で建築内容の変更を強いられてしまうと、当然に新たなトラブルに派生することになります。そこで、細かい内容になりますが、建築基準法等の法律だけでなく、各政令や地方公共団体の定める条例等を確認する必要があるのです。
このような知識については、知らなければ対応する事すらできませんから、是非、専門家への御相談をご検討いただければと思います。

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