リフォームやリノベーションと契約不適合責任

不動産売買を行う際、広告でリフォームやリノベーションがうたわれているケースがよくあります。それにもかかわらず物件に不具合があった場合、契約不適合責任が発生するのでしょうか?

この記事ではリフォームやリノベーションと契約不適合責任の関係について解説します。リフォーム・リノベーション済物件の取引を行ってトラブルになった場合にはぜひ参考にしてみてください。

1.リフォーム・リノベーションとは

そもそもリフォームやリノベーションとはどういったものなのか、理解しておきましょう。

リフォームとリノベーションは異なる概念とされますが、はっきり線引きされているわけではありません。

一般的に、リフォームとは建設後年数が経過して劣化した建物の内装、外装、設備やデザインなどの改修を指します。広義には増改築を含む改修を指す場合もあります。

一方、リノベーションは古い獲物を新たな使用に耐えられるよう修繕・改造することとされます(日本建築学会「建築学用語辞典」)。このように、リフォームとリノベーションはほとんど区別のつかない定義となっています。

一方、取引実務においては、リフォームは中古住宅において汚損・破損などを修繕したり設備の手直しを行ったり、壁や床を張り替えたりして「原状に戻す」ことを意味するケースが多数です。これに対し、リノベーションとは間仕切りをおいたり部屋の間取り、デザインを大きく変更したりして、リフォームより大きく建物を改造し、建物の機能を高める場合をいうケースが多数となっています。

つまりリフォームは陳腐化した部分を修繕して元の状態に戻すこと、リノベーションはより良い改造を含むものと理解されている傾向がみられます。

2.契約不適合責任とは

不動産取引時にリフォームやリノベーションについて買主に対し適切な説明が行われなかった場合、契約不適合責任が発生する可能性があります。

契約不適合責任とは、取引の対象物が契約目的に合致しないケースにおいて、売主が買主に対して負う責任です。

対象物の種類や数量、品質が契約目的と異なる場合に契約不適合責任が生じます。

過去の民法には「瑕疵担保責任」という規定がありましたが、2020年4月の民法改正によって瑕疵担保責任は削除され、代わりに契約不適合責任が定められました。

契約不適合責任が発生すると、買主は売主に対して以下のような請求ができます。
●修補請求、追完請求
●代金減額請求
●解除
●損害賠償請求

3.リフォーム・リノベーションの説明不足で契約不適合責任が発生するのか

それではリフォームやリノベーションについての説明不足があった場合、買主は売主へ契約不適合責任を追及できるのでしょうか?

契約不適合責任が発生するのは「そのものが通常有する品質や性能を欠く場合」です。

リフォーム・リノベーション物件に「通常有する品質や性能があったかどうか」については個別的な判断が必要となると考えます。たとえば以下のような場合、契約不適合責任が認められやすくなるでしょう。

3-1.築年数が浅い

物件の築年数が浅いと、通常は設備の不具合などは少ないと考えられます。それにもかかわらず不具合が生じていたら、契約不適合と認められやすくなるでしょう。一方、物件の築年数が古い場合には経年劣化があっても当然なので、リフォームやリノベーションしたとしても契約不適合は認められにくくなります。

3-2.不具合による不便の度合いが高い

設備などの不具合によって買主が受ける不便の度合いが低いと契約不適合とはいいにくくなります。不具合による不便の度合いが高ければ、ものが通常有する品質、性能を備えているといいがたくなって契約不適合責任が発生しやすくなるでしょう。

3-3.売買価格にはリフォームやリノベーションの費用が大きく反映されていた

売買価格も契約不適合責任発生の有無に影響します。売買価格にリフォームやリノベーションの価格が大きく乗って高額になっていれば、買主は「不具合などない」と期待するので契約不適合責任が発生しやすくなるでしょう。一方、リフォームやリノベーションによる上乗せ費用が抑え気味であれば、契約不適合責任は発生しにくくなります。

3-4.買主が物件の不具合を認識していなかった

買主がリフォーム・リノベーション後の物件の不具合を認識していなければ契約不適合責任が発生しやすくなります。反対に、気づいていた場合や気づく余地があった場合などには契約不適合責任が発生しにくくなります。

3-5.リフォーム・リノベーション後にさらに改修が必要な部分があったが説明されず、買主が認識していなかった

リフォームやリノベーション後に、まだ改修が必要な部分が残されているケースもあります。そんなときには買主がその事実を認識していなければ、契約不適合責任が発生しやすくなります。

4.リフォーム・リノベーションと契約不適合責任についての裁判例

リフォームやリノベーションが行われた物件の取引で契約不適合責任が問題となった事例(裁判例)をみてみましょう。

4-1.「新築同様にフルリフォーム完了!」という広告表示が行われたケース(東京地判平成28年4月22日)

広告で「新築同様にフルリフォーム完了!」と記載されていたけれども、実際には台所の流し台の排水状態が悪化していたケースです。

買主は売主へ瑕疵担保責任を追求して訴訟を起こしました。

裁判所は以下のように述べて瑕疵(欠陥)を否定しました。
流し台の水の逆流の程度は短時間のうちに流れきる程度のものであり、流し台の使用に関して特別支障になるとはいいがたい
●本件建物は売買契約当時、築44年以上となっていた
●本件のような築古物件の場合、新築物件に劣る部分があったり機能面で必ずしも十全といえない部分があったりするのも想定の範囲内である

よって本件物件がものの通常備える品質や性能を有していないとはいえず、瑕疵に該当しないと判断されました。

4-2.「売主がスケルトン状態から内装工事を行う」とするパンフレットが示された事例(東京地判平成25年3月18日)

「スケルトンから内装リノベーション予定《デザイナー監修》」などと広告表示して物件の取引が行われた事例です。

取引後、ルーフバルコニー側から書斎や居間に浸水する被害が生じたため、買主が売主や不動産媒介業者へ損害賠償請求を行いました。

裁判所は以下のように述べて瑕疵担保責任にもとづく損害賠償請求を一部認容しました。
●本件ではスケルトン状態から売主がリノベーション工事を行う前提で取引された
●不動産媒介業者も買主に対し、リノベーション工事が行われてから取引が行われると説明していた
●不動産媒介業者が説明を怠ったために買主は内装工事の内容について交渉する機会等を失った

4-3.築後50年以上の物件のリノベーション事例(東京地判平成30年7月20日)

築後50年以上の物件でリノベーション工事後に取引が行われましたが、屋根庇の軒先から軒裏にかけての鼻隠し部分に腐食があり、さらなる修繕の必要性があったケースです。裁判所は以下のように述べて売主の瑕疵担保責任を認めました。
●売買代金が築50年の物件としては高額であった
●鼻隠し部分の腐食は建物の基本構造部分である屋根の基本的性能の問題である
●本件建物は住宅としての最低限の品質・性能を有しない
●契約当時、本件建物の軒先から軒裏にかけての部分が建物の全周にわたって腐食していたことは瑕疵に該当する

まとめ

売主や不動産媒介業者が「リフォーム・リノベーション済」と説明していたにもかかわらず不具合があれば、契約不適合責任が発生する可能性はあります。ただ専門知識がないと、実際に責任が発生するかどうか判断するのは難しいでしょう。不動産取引でトラブルが起こった場合には、弁護士に相談するとスムーズに解決できるケースが多数です。お困りの際にはお気軽にダーウィン法律事務所の弁護士までご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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