契約不適合責任の裁判例紹介

取引の対象となった不動産に欠陥があると、売主には契約不適合責任が発生する可能性があります。ただし欠陥があってもすべてのケースで契約不適合責任が発生するとは限りません。

どのような場合に契約不適合となるかに付いて判断する際には、過去の裁判例が役に立ちます。

今回は契約不適合責任に関する裁判例をご紹介します。不動産取引でトラブルに巻き込まれた方などはぜひ参考にしてみてください。

1.契約不適合責任が発生するケース

契約不適合責任とは、取引の目的物に欠陥がある場合に売主が買主に対して負う責任です。

対象物が契約の目的に合致していないとき、売主は買主に対して契約不適合責任を負います。

契約不適合責任は、物件に瑕疵(欠陥)がある場合に認められると考えられています。

物件の瑕疵には以下の3種類があります。

1-1.物理的瑕疵

物件に認められる物理的な欠陥です。たとえば以下のような場合が該当します。
●雨漏りがする
●シロアリが巣食っている
●地盤沈下がある
●地中に埋設物がある
●土壌汚染されている

1-2.心理的瑕疵

心理的瑕疵とは、人が心理的に物件の取得を望まないような事故や事件が起こったことによる瑕疵です。たとえば以下のような場合が該当します。
●過去に自殺が起こった
●過去に殺人や強盗が起こった
●過去に放火事件があった

1-3.法律的瑕疵

物件に法律的な建築制限がかかったり物件に担保権や用益権が設定されていたりする場合の瑕疵です。

たとえば法律や条例で建築制限される場合、再建築不可物件などが該当します。

上記3種類のほか、周辺に嫌悪施設がある場合や住環境に欠点がある場合に「環境的瑕疵」という範疇に分類するケースもあります。

取引の対象物が契約不適合となるかどうかについては、その物が通常有するべき性質や性状を欠いているかどうかで判断されます。

その種類のものであれば当然有するべき最低限の性能や性質すら有していなければ契約不適合となりますし、そういった性能を有していたら基本的に契約不適合になりません。

また判例において「売買契約時に当事者間で目的物がどのような品質、性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念を斟酌して判断すべきである」と示されています(最高裁平成22年6月1日)。

2.契約不適合責任が認められた裁判例

以下では契約不適合責任が認められた裁判例をみてみましょう。

2-1.雨漏りがした場合に損害賠償請求が認められた事例(東京地判平成25年3月18日)

マンションの引き渡し後、雨が降ると書斎や居間にルーフバルコニーから浸水したり書斎や居間の隙間から細かい落ち葉が室内に入ったりする不具合が明らかになったケースです。

建物は、売買契約が行われた時点ですでに築後30年が経過していました。

また本件では売主側が適切に内装工事を行ってから物件を引き渡すことが、当事者双方の前提となっていました。

裁判所は内装工事が行われる予定であったことを重視し、「内装工事部分については新築建物と同様に通常有すべき品質や性能を欠くかどうかが判断されるべきである」としました。

その上で、雨が降ったときに書斎や居間に雨水が入ってくることは「サッシの状態として通常有するべき品質や性能を欠く」と判断しました。

よって本件では物件の瑕疵が認められました。

2-2.傾斜があった場合に瑕疵が認められた事例(大阪地判平成15年11月26日)

築後7年の物件で、建物に傾斜があった事例です。

買主が売主から物件を購入したところ、不等沈下によって建物に約70分の1の勾配傾斜があることが判明しました。

そこで買主が売主に瑕疵担保責任(改正前民法の契約不適合責任に相当する責任)を追及した事案です。

裁判所は以下のように延べて、本件の建物に瑕疵を認めました。
●建物の傾斜は経年劣化によるものではなく地盤の不等沈下によってもたらされるものである
●本件建物に起こっている傾斜は築後の経年劣化によって通常生じるものとはいえないので、買主が傾斜を承知で物件を買い受けたり価格が傾斜を反映したものだったりしない限りは瑕疵となる
●本件で、買主は傾斜を許容していなかったし、売買代金にも傾斜が反映されていなかった

3.契約不適合責任が認められなかった裁判例

次に契約不適合責任が認められなかった裁判例をみてみましょう。

3-1.築後38年のマンションで瑕疵が認められなかった事例(東京地判平成26年1月15日)

築後38年のマンション取引が行われた事例で、暴風雨の際にサッシなどから浸水したために瑕疵に該当するか争われました。

裁判所は以下のように述べて瑕疵担保責任を否定しました。
●売買契約時、買主に対して物件状況等報告書が交付され、物件には経過年数に伴う変化や通常使用による摩耗、損耗があると告知されていた
●重要事項として、本件マンションが築38年(昭和48年築)であることが告げられていた
●建物躯体や窓、ドアのアルミサッシの品質性能について、契約上特段の合意はされていない
●売主が特別に品質性能を保証した経緯もない

以上のような事情から、マンションのサッシが「物の通常有するべき品質性能を欠く」とはいえず、瑕疵担保責任は発生しない、と判断されました。

3-2.築後23年のアパートの過去の雨漏りや腐食が瑕疵と認められなかった事例

築23年のアパート売買時に、物件状況等報告書において「現在まで雨漏りを発見していない」「腐食は発見していない」「増改築・修繕の履歴は無し」と報告されていた事例です。

買主は物件の購入後、物件に雨漏りや腐食が発生している疑いがある、として買主へ瑕疵担保責任にもとづく損害賠償請求をしました。

裁判所は以下のように述べて瑕疵担保責任を否定しました。
●物件状況等報告書に「現在まで雨漏りを発見していない」「腐食は発見していない」などと書かれていても、買主の現状の認識を表現しただけであって過去に雨漏りや腐食が発生していないことを法律的に保証したとまではいえない
●過去に雨漏りや腐食があったとしても、現在の物件の利用に支障を生じさせるものではない
●本件建物が売買契約当時に築後23年経過していたことを考えると、過去に雨漏りや腐食があったとしても建物の瑕疵とはいえない
●売買契約当時、物件には雨漏りが生じていた事情は認められない
●建築後、相当な年数が経過している物件の場合、腐食があったとしても軽微であれば物件の瑕疵とはいえない
●本件物件内で起こっていた腐食はいずれも軽微なものであったり建物の主要部分でない場所で起こっていたりして、建物の使用に重大な影響を与えるものではない

3-3.築後19年の物件で雨樋の詰まりや床鳴りなどの問題があった事例(大阪高裁平成16年9月16日)

築後19年のマンションで床鳴りがしたり雨樋が詰まっていたりするといった理由で買主が売主に瑕疵担保責任を追求した事例です。

裁判所は以下のような事情から瑕疵担保責任を否定しました。
●床鳴りの程度はただちに床組を補強しなければならないほどの強度なものではない
●雨樋が詰まっているとはいえ、全面的に交換しなければならないほどのものとは認められない
●屋根や外壁にひびがあるが、雨漏りなどの具体的な支障は生じていない

まとめ

買主から契約不適合責任が主張されると、売主との間で大きなトラブルに発展するケースが少なくありません。まずは契約不適合責任が本当に発生するといえるのか、見定めなければならないでしょう。そのためには専門的な知識が必要です。

ダーウィン法律事務所では不動産取引のサポートに力を入れて取り組んでいます。契約不適合責任について不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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