不動産取引の目的物に欠陥があると、売主に契約不適合責任が発生する可能性があります。
契約不適合責任とは、売買や請負の目的物に欠陥がある場合に売主や請負人が負う責任です。
ただし契約不適合責任には期限があるので、買主が売主の責任を追及したい場合には期限内に対応しなければなりません。
この記事では契約不適合責任の期限について解説しますので、不動産売買契約を締結する方はぜひ参考にしてみてください。
目次
不動産取引における契約不適合責任は、売買の目的物となった物件に欠陥があるとき、売主が買主に対して負うで責任です。
たとえば以下のような場合に契約不適合責任が発生します。
●物件にシロアリが巣食っている
●物件で雨漏りが発生している
●土地の取引で深刻な土壌汚染が起こっている
契約不適合責任が発生すると、買主は売主へ以下のような請求ができます。
物件の欠陥を修理するなどの方法で、完全なものを納めるよう請求できます。
修理が不可能な場合などには、代金減額請求も請求できます。
物件の欠陥によって買主が損害を受けた場合、損害賠償請求も可能です。
契約不適合がある場合、買主は契約の解除もできます。
契約不適合責任は、永遠に認められるわけではありません。
契約不適合責任がいつまでも発生すると、売主の立場が不安定になるためです。
法律により、契約不適合責任が発生する期間は以下のように限定されます。
目的物の種類や品質に契約不適合がある場合、買主は「契約不適合を知ったときから1年以内」に売主に対し、通知を送らなければなりません。
●種類の契約不適合…不動産の種類が契約目的に合っていないケースなどです。たとえば地目が「宅地」という前提で売買契約が行われたのに、実際には「田畑」だった場合などに種類の契約不適合が認められます。
●品質の契約不適合…対象物の種類が契約不適合な場合の契約不適合責任です。たとえばシロアリがいない前提で購入された物件に実はシロアリが巣食っていた場合などが該当します。事故物件ではない前提で取引されたのに事故物件だったケースでも品質の契約不適合が起こります。
民法第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
上記のような「種類」や「品質」の契約不適合の場合、買主が「契約不適合の事実を知ったときから1年以内」に売主へ契約不適合の通知をしなければなりません。その期間をすぎると契約不適合責任を追及できなくなってしまいます。
ただし買主が行うべきことは「契約不適合の通知」のみであり、具体的な請求まではその期間内に行う必要がありません。具体的な請求については、債権の消滅時効が成立するまでに行えば足ります。債権の消滅時効については、次の項目で解説します。
契約不適合責任の場合でも、数量や権利についての欠陥の場合には通常の消滅時効が適用されます。
●数量の契約不適合…契約の前提となった数量に不足する場合です。たとえば面積が100平方kmという前提で土地を購入する契約をしたにもかかわらず、実際には90平方メートルしかなかった場合などです。
●権利の契約不適合…権利の契約不適合とは、取引の目的となった不動産の権利制限について両者の認識に齟齬が発生したケースをいいます。たとえば買主が「自由に利用できる土地」という前提で購入したにもかかわらず、実際には借地権がついていた場合などが該当します。
上記のような場合には、民法の定める消滅時効が適用されます。
通常の債権の消滅時効は以下の期間がすぎると成立します。
●権利を行使することができることを知ったときから5年
権利者が「権利を行使できる」と知ったときから5年で時効が成立します。買主が数量不足などに気づいたら、その時点から5年が経過した時点で時効が成立する、という意味です。
●権利を行使できるときから10年間
権利を行使できることに気づかなくても、客観的に権利行使できる状態になってから10年が経過すると消滅時効が成立します。
買主が事業者の場合、一般消費者とは異なるルールが適用される可能性があります。
営利目的を持つ商人同士の売買では、買主は目的物を受け取った後、遅滞なく受け取ったものの検査を行わねばなりません。検査の結果、契約不適合を発見した場合、買主はすぐに売主へ通知する必要があります。通知をしなかった場合、契約不適合責任は追及できなくなってしまいます(商法526条1項)。
また売買の目的物にすぐには発見できないような欠陥がある場合でも買主が欠陥を6か月以内に発見したら、すぐに買主へ通知しなければなりません(商法526条2項)。
このように事業者の場合に契約不適合責任の期限が限定されるのは、事業者は消費者と異なり取引の専門家であり、保護の必要性が低いためです。商法では、当事者保護よりも取引の円滑さが求められています。
売主が事業者で買主が消費者の場合には、契約不適合責任の期間が延長される可能性もあります。
たとえば売主が宅建業者の場合、契約不適合責任を「物件を引き渡し後2年間」以上にする場合をのぞき、当事者間で契約不適合責任の期間を短縮できません。実際に特約によって契約不適合責任の発生期間を「物件の引き渡し後2年」とするケースもよくあります。
つまり売主が宅建業者の場合、最低でも「物件の引き渡し後2年間」は契約不適合責任を追及できるケースが多いと考えましょう。
また品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、新築住宅の場合には契約不適合責任が発生する期間が「物件の引き渡し後10年間」になります。
つまり新築住宅を事業者などから購入した場合には、引き渡し後10年間であれば契約不適合責任を追及できます。
このように売主が事業者の場合に契約不適合責任が延長されるのは、事業者である売主の保護の必要性が低いのに対し、素人である一般消費者を保護する必要性が高いためです。
不動産の売買契約を締結する際、契約不適合責任が発生する期間は非常に重要です。
契約書に署名押印する前に、当事者同士でしっかり話し合って契約不適合責任の発生期間について納得できる方法で取り決めましょう。
契約不適合責任について取り決めを行う際には、後に不利益を受けないようにお互いが慎重に検討する必要があります。
不動産取引の場面では、法律の専門知識が必要となるケースも多々あります。
トラブルが起こってしまった場合はもちろんのこと、将来のトラブルを予防したい場合にも弁護士は力強い味方となります。不動産に関するトラブルに巻き込まれて困ったときには弁護士へ相談しましょう。
ダーウィン法律事務所では契約不適合責任や共有トラブル解決に力を入れて取り組んでいますので、お悩みがありましたらお気軽にご相談ください。