周辺環境が悪い場合に契約不適合(瑕疵)になるか、不動産に強い弁護士が解説

不動産を購入する際には「周辺環境」が重要な考慮要素となるケースが多々あります。

住居の場合には周辺の平穏な居住環境や快適さが必要になるでしょうし、事業所として利用する場合でも周囲に騒音や嫌悪施設などがあると不都合が生じやすいでしょう。

購入した不動産の周辺に環境を悪化させる施設や状況がある場合、買主は売主へ契約不適合責任を問えるのでしょうか?

この記事では不動産の周辺環境が悪い場合に契約不適合責任やその他の責任が発生するのか、パターンごとに解説します。不動産の周辺環境のトラブルでお困りの場合にはぜひ参考にしてみてください。

1.騒音や振動がある場合

周辺に鉄道や高速道路、空港などがあると、物件の利用者が騒音や振動に悩まされるケースが少なくありません。

周辺で騒音や振動が発生している場合、売主は買主に対し、その内容や原因を告げる必要があります。

たとえば不動産の販売会社が、マンションの近くに騒音が発生しているにもかかわらず騒音について告げなければ、不法行為が成立する可能性もあります。

裁判例

ケース1
裁判例として、防音性能を備えていないサッシの付いたマンションで、販売会社が購入希望者へ「遮音性、気密性に優れた高性能防音サッシを利用」などと虚偽のセールストークをした事案があります。

このケースでは、販売会社に不法行為責任が認められました(福岡地裁平成3年12月26日)。

ケース2

騒音や振動が発生していても、必ず契約不適合となるわけではありません。

たとえば飛行場の近くの物件を購入して騒音被害が争われた事案において、「音の程度は受忍限度内」として買主側の請求を棄却した裁判例があります(浦和地裁川越支部平成9年9月25日)。

騒音の場合、人によって気になる程度が異なりますし、騒音や振動があるからといってすべてのケースを違法とすることはできません。受忍限度を超えるような大きな音が発生しているにもかかわらず売り手があえてその事実を秘匿したり積極的に虚偽を述べたりした場合には、契約不適合責任や不法行為責任が発生しやすいといえるでしょう。

2.隣地の利用計画がある場合

不動産の購入後、隣地の利用が進められると結果的に購入した不動産が悪影響を受けてしまうケースがよくあります。

たとえば近くに大きなマンションが建ったために日が当たらなくなった場合、高架道路が建築されて騒音や排気ガスの被害が発生するようになった場合などです。

ただ隣地については隣地の所有者が自由に利用できるので、隣地をどのように活用されても不動産の購入者はクレームを言えないのが原則となるでしょう。買主としても、購入したときの状態が永続的に続くとは考えていないはずです。

一方で、売主や不動産媒介業者が「住環境が良い」などとことさらに強調し、それが前提で売買が行われた場合などには、説明と異なる開発が行われたときに説明義務違反となる可能性があります。

裁判例


ケース1

隣接地に高架道路を建設する計画があったにもかかわらず、売主(不動産会社)がその事実を買主に告知せず、仲介業者も十分な調査を尽くさなかった事案です。売主と仲介業者の責任が認められました(松山地裁平成10年5月11日)。

ケース2

買主に対し、「現状よりも高い建物は建たない」などと虚偽の説明を行い、実際には取引後に隣地に建物が建築されて不動産の日照が阻害されたケースにおいて、売主(不動産会社)や媒介業者に不法行為責任が認められた事例です(東京地裁平成10年9月16日)。

3.嫌悪施設がある場合

不動産を購入する際には、近くにいわゆる嫌悪施設があるかどうかも重要な考慮要素となります。嫌悪施設には、葬儀場や遺体の一時保管所、墓地や汚水処理施設などがあります。

ただ何を嫌悪するかどうかは人によっても異なります。契約不適合責任や不法行為責任が発生するかどうかを考える際には、以下のような要素も考慮する必要があるでしょう。
●買主の購入目的
●物件の用途地域
●地域性
●販売広告の内容
●不動産の位置
●不動産の外観や公共性
●嫌悪とされる施設が売買の目的物にもたらす実害の有無や程度

裁判例

マンションの近くに遺体一時保管施設があることを告げられずに購入した買主が、売主へ不法行為にもとづく損害賠償請求を行ったケースです。

裁判所は、遺体一時保管施設が周辺の民家にさほどの悪影響を与えるものではなく、マンションから遺体一時保管施設までの距離も直線で380メートル離れた場所にあり、マンションから散歩に出る際にも遺体一時保管施設の近くを通るわけでもないとして、買主による請求を棄却しました(東京地裁平成30年10月1日)。

4.隣人とのトラブルがある場合

購入した物件において、隣人とトラブルが発生していると購入者は近隣トラブルに巻き込まれてしまいます。そこで売主が買主へ近隣トラブルについて告げなかった場合、契約不適合責任や不法行為責任が発生する可能性があります。
近隣トラブルによって買主や媒介業者の責任が認められるかどうかについては、以下のような要素を考慮して判断されます。
●購入目的
●不動産の所在する周辺環境
●隣人の属性
●過去のトラブル内容
●トラブルが周知されているかどうか

裁判例

購入した物件の隣に極端に子ども嫌いな隣人がおり、近隣住民に迷惑行為をしてしばしばトラブルを起こしていたケースです。

一審では売主らの責任が否定されましたが、控訴審では売主と媒介業者の説明義務違反が認められました(大阪地裁平成15年10月15日)。

5.暴力団事務所がある場合

売買の目的となる不動産の近くに暴力団事務所があると、不動産の所在エリアにおける周辺環境が大きく損なわれます。住環境の安全性や快適性、平穏性が大きく害されるでしょう。

よって売主には買主に対し、近くに暴力団事務所があることについての告知義務が認められます。また媒介業者が近隣の暴力団事務所を認識している場合、媒介業者も買主に説明をしなければなりません。

一方、媒介業者が暴力団事務所がある可能性を認識していないとき、近隣住民から個別に聞き取りを行って「近くに暴力団事務所があるかどうか」を調べるべき義務までは発生しないと考えられています(東京地裁平成11年6月15日参照)。

あくまで「認識している場合に買主へ告げるべき義務」があるものと理解しましょう。

裁判例

ケース1

事務所兼住宅を建設する目的で、商業施設内の土地が売買されたケースです。
対象の土地には、交差点を隔てた対角線上の位置に暴力団事務所がありました。

買主は暴力団事務所の存在が瑕疵にあたると主張し、買主を提訴しました。

裁判所は暴力団事務所の存在は土地の瑕疵にあたると認定しました(東京地裁平成7年8月29日)。

ケース2
中古マンション内の住戸に暴力団幹部が家族と入居していたケースです。その住戸には暴力団関係者の出入りがあり、幹部はマンション管理費も長期にわたって滞納していました。

裁判所は「通常人にとって明らかに居心地の良さを欠く状態になっている」として、物件の瑕疵を認めました(東京地裁平成9年7月7日)。

6.高圧送電線がある場合

購入された物件の近くに高圧送電線があると、土地の利用が制限される可能性があるので土地の瑕疵とされる可能性があります。

ただしすべてのケースで買主や媒介業者に責任が認められるわけではありません。土地の購入目的や地域性、用途区域などによって結論が変わってきます。

裁判例

裁判例にも売主らの不法行為責任を一部認めたもの(東京地裁平成27年12月25日など)と認めなかったもの(京都地裁平成28年4月13日など)があります。

高圧送電線と売主の責任については、ケースバイケースの判断が必要といえるでしょう。

ダーウィン法律事務所では不動産売買のサポートやトラブル解決に力を入れて取り組んでいます。お困りの際にはお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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