シロアリや害虫が見つかった場合には契約不適合(瑕疵)になるか、不動産に強い弁護士が解説

売買の対象となった物件にシロアリや害虫・害獣が巣食っていたら、当然買主は「納得できない」と感じるでしょう。契約不適合責任を主張して契約の解除や損害賠償請求などができるのでしょうか?

この記事では取引対象となった物件内にシロアリや害虫、害獣が見つかった場合に売主に契約不適合責任が発生するのか、裁判例を交えて弁護士が解説します。

1.契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、契約の対象物件が契約目的に適合していない場合に売主が負う責任です。不動産売買の場合、対象物が欠陥住宅であれば当事者にとって「契約の目的に合致していない」といえるでしょう。

契約不適合責任が発生すると、買主は売主へ以下のような請求ができます。

1-1.瑕疵修補請求

物件に認められる欠陥を修理して完全なものを引き渡すように要求できます。たとえば欠陥住宅の場合、欠陥部分を修理するよう請求できます。

1-2.代金減額請求

売主が修理に対応しない場合や修理ができない場合、買主は売主へ欠陥がある分について代金減額請求ができます。

1-3.損害賠償請求

欠陥によって買主が損害を被った場合には、買主は売主へ損害賠償請求ができます。

1-4.解除

契約不適合があって売主が催告を受けても追完に応じない場合、買主は売買契約の解除もできます。

1-5.瑕疵担保責任と契約不適合責任

契約不適合責任は、改正民法によって新しく作られた制度です。従来、売買物件に欠陥があった場合には「瑕疵担保責任」とよばれる責任が発生していました。

瑕疵担保責任で買主に認められたのは解除と損害賠償請求のみでした。

現在の契約不適合責任では修補請求や代金減額請求もできるので、買主の選択肢が広がったといえるでしょう。

2.シロアリや害虫が巣食っていると契約不適合になりうる

売買物件内にシロアリや害虫が巣食っていた場合、対象物は「契約目的に合致しない」ともいえるでしょう。よって買主は売主へ契約不適合責任を追及できる可能性があります。

ただしすべてのケースで買主の主張が認められるとは限りません。たとえば築古の中古物件の場合などにはネズミやゴキブリなどがいても瑕疵とはいえないという判断もありうるためです。一時的に害虫が発生したいただけ、という状況も考えられます。

この記事では参考となる4つの裁判例を後述します。

3.売主の告知義務とは

物件内にシロアリや害虫が巣食っている場合、契約不適合責任とは別に売主には「告知義務」が発生すると考えられます。すなわち売主は買主へ「物件内にシロアリや害虫が巣食っている」と説明しなければなりません。

説明しなければ債務不履行責任や不法行為責任が発生する可能性があります。

4.不動産会社の説明義務とは

物件内にシロアリや害虫が巣食っている可能性がある場合、売買を仲介する不動産会社は物件の状況を確認し、一定の調査をしなければなりません。また物件内にシロアリや害虫が巣食っている事実が明らかになれば、買主側へ説明すべき義務も負います。

不動産会社が調査や説明義務を怠った場合、買主は不動産会社へ損害賠償請求できる可能性があります。

5.シロアリや害虫が見つかった場合の裁判例

シロアリや害虫が見つかった場合の裁判例をみていきましょう。

なお以下でご紹介する裁判例は改正前民法の瑕疵担保責任が適用されたものです。

現在では契約不適合責任に変わっているので多少判断の枠組みが異なる可能性はありますが、シロアリや害虫が「瑕疵(欠陥)」に該当するかや、売主・不動産会社の告知義務・説明義務などに関してはほとんど同じ枠組みで判断できます。

よってここでは瑕疵担保責任が適用されるかなどについて判断された裁判例をご紹介していきます。

事例1 天井裏にコウモリが繁殖して瑕疵が認められた事例(神戸地裁平成11年7月30日)

1つ目は、物件の天井裏にコウモリが繁殖していて瑕疵が認められた事例です。

買主が購入したのは築8年の中古物件で、入居後に天井裏にコウモリの糞が大量に堆積し、断熱材や天井ボードににじみができて柱にもカビが発生している事実が発覚しました。

買主は売主に対して瑕疵担保責任を追及し、不動産会社に対しては調査義務や説明義務違反で損害賠償請求を行いました。

裁判所は以下のように判断しました。

コウモリの大量繁殖は瑕疵にあたる
まず「建物が住居としての目的を達するには、建物としてのグレードや価格に応じた快適さ(清潔さ、美観など)を備えている必要がある」として「巣食った生物の種類や生息する個体数によっては一般人の立場からしても受忍限度を超え、グレードや価格に応じた快適さに欠ける」という判断基準を立てました。

そのうえで「本件売買当時、すでに物件内に大量のコウモリが巣食っていたことは、上記基準にあてはめると瑕疵といえる」として、コウモリが巣食っていたことを瑕疵と認めました。

事例2 瑕疵担保責任による解除が認められなかった事例(東京地裁平成22年3月10日)

建物内にシロアリが巣食っていたけれども瑕疵が認められなかったケースです。

売主と買主が売買契約を締結し、内金を支払った段階で買主がシロアリ業者などと調査を行ったところ、シロアリが発見されました。買主は残代金の支払を拒否し、売主に対して契約の解除を主張し、不動産会社には損害賠償請求を行いました。

裁判所は以下のように述べて、本件における買主の主張を排斥しました。
●本件建物に生じていたシロアリ被害の程度が建物として無価値と判断されるほどのレベルに達していたとはいえない
●売主らは物件内にシロアリが巣食っているとの連絡を受けた後、誠実に対応していた
●シロアリ検査を実施するには外壁を破壊しなければならなかったので、契約締結前に調査できなかったとしてもやむを得ない

瑕疵担保責任にもとづく買主への主張も債務不履行などにもとづく不動産会社への損害賠償請求も認められませんでした。

事例3 イエヒメアリが繁殖して瑕疵が認められなかった事例(大阪高裁平成12年9月29日)

買主が築25年のマンションの最上階(7階)を購入した事例です。物件にはイエヒメアリによる被害が生じていたので、買主は契約を解除して売主へ損害賠償請求を行いました。

一審は本件マンションには瑕疵があるとして買主の主張を認めましたが、二審(高裁)は以下のように述べて買主の主張を排斥しました。
●解除時の状況が常態化していたわけではなく、解除時はアリの異常発生が生じていた特異な状況であった
●築25年以上の建物の場合、ある程度の害虫の発生や棲息は予測される
●物件の抱える問題が日常生活に絶えず支障を及ぼし、問題を低減するのが不可能でない限り、瑕疵とはいえない

結果としてイエヒメアリの繁殖は瑕疵とはいえず、買主による売主への瑕疵担保責任は認められませんでした。

事例4 ネズミやゴキブリがいても瑕疵に当たらないと判断されたケース(東京地裁平成26年2月20日)

物件内にネズミやゴキブリが棲息していて買主が売主へ瑕疵担保請求を行った事例です。

裁判所は以下のように述べて本件建物に瑕疵はないと判断しました。
●瑕疵とは客観的にその物が通常有するべき品質を有しないことである
●建物内にネズミやゴキブリがいても、建物が通常有するべき品質を欠くとはいえない

ネズミやゴキブリは瑕疵とはいえないとして、買主の請求は認められませんでした。

まとめ

シロアリや害虫、害獣が発生した場合、物件の築年数や発生した害虫、害獣の種類、個体数などによっても瑕疵(欠陥)に該当するかどうかが変わってきます。一審と二審で判断が分かれた事例もあり、実際に契約不適合責任が発生するかについては個別的で専門的な判断を要します。

不動産売買でシロアリ・害虫などが問題となって契約不適合責任を追及したい買主様、追及された売主様はよければ一度、弁護士までご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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