売買した建物が老朽化していた場合、売主に契約不適合責任が発生するのでしょうか?
確かに老朽化していると建物に腐食や設備性能の低下などの問題が発生する可能性も高くなります。老朽化している建物のすべてが契約不適合になるわけではありませんが、一定の場合には売主に責任が生じる可能性もあります。
この記事では老朽化した建物や設備に契約不適合責任が発生する場合や判断基準などをお伝えします。不動産を売買する方はぜひ参考にしてください。
目次
建物が老朽化していると、床などに腐食が発生したり設備の性能が低下したりするケースが多々あります。
こうした経年劣化にともなう建物の問題については、必ず契約不適合責任が発生するとは限りません。
契約不適合責任とは、契約の対象物が契約目的に合致しないときに売主に発生する責任です。わかりやすくいうと、売却した不動産に欠陥があったら、買主は売主へ契約不適合責任を問えます。
老朽化した建物の場合、経年劣化によって新築住宅のような性能を備えていないのは当然といえます。よって経年劣化にともなって当然に発生する問題については契約不適合責任が発生しません。
では中古住宅の場合、どういった基準で契約不適合責任が発生するかどうか決まるのでしょうか?
中古住宅の場合には「その経過年数の中古住宅が通常備えているはずの品質や性能を欠いているか」という基準で契約不適合かどうかが判断されます(大阪高裁平成16年9月16日など)。
たとえば築年数が10年の物件であれば、10年が経過した建物が通常有するべき品質や性能を持っているかどうかが問題です。新築住宅との比較ではなく「築10年の物件として通常有するべき性能や品質があるか」で判断します。
築10年の物件として通常有するべき品質や性能があれば、新築住宅と比べて性能が低下していても契約不適合にはなりません。一方、築年数10年の建物が通常有するべき品質にすら満たない場合、契約不適合になります。
中古住宅の場合、売主がリフォームして引き渡す内容の契約になっているケースがよくあります。この場合には買主は「リフォーム部分については新築同様の性能を備えているはず」と考えるでしょう。よってリフォームの対象となった部分については、新築住宅と同様の品質・性能を有していなければ契約不適合になると考えられます(東京地裁平成25年5月28日)。
中古住宅の売買の場合、当事者の契約内容によっても契約不適合になるかどうかが変わります。
老朽化した建物で設備や品質に不具合が生じていても、買主が不具合を了解して売買契約締結時の状態で契約を締結した場合には、契約不適合にはあたりません。
通常、対象物件が老朽化していて性能が低下していれば契約条件にも反映され、売買価額が低額になるでしょう。このように目的物の品質や性能が契約内容や契約条件に反映されている限りは契約不適合責任が発生しないのです。
老朽化した建物の契約不適合責任について、裁判例を2件ご紹介します。
築古の建物で雨漏りによって腐食が発生していてたケースでは、腐食が生じていた部分が建物の主要部分ではなかったこと、腐食の程度が軽微なものだったことを理由に瑕疵担保責任(民法改正前の契約不適合責任類似の責任)が認められませんでした(東京地裁平成27年11月30日)。
反対に、築後20年を経過した物件であっても、建物の構造耐力に関する主要部分に重大な欠陥があったケースで瑕疵担保責任が認められた事例があります(東京地裁平成18年1月20日)。
瑕疵担保責任とは、2020年4月の民法改正前に適用されていた、売買契約における売主の責任です。民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わったのであり、両者は類似しています。
基本的には瑕疵担保責任の判断基準をそのまま契約不適合責任に置き換えて良いケースが多数です。よって本稿でも瑕疵担保責任の裁判例や学説をもとに契約不適合責任の発生の有無について解説していきます。
上記の裁判例からもわかるように、老朽化した建物で契約不適合責任が発生するかどうかについてはケースバイケースの判断が必要です。
不動産売買で契約不適合責任が発生するかどうかが不明で迷ったときには、住宅建築や不動産の法律に詳しい弁護士へ相談しましょう。
以下では建物の傾き、雨漏り、腐食などの個別の問題に付いて契約不適合責任が認められるかどうかをご説明します。
建物が傾いていると、居住や事業などの目的を達成するのが難しくなります。そこで老朽化していても、建物に傾斜があれば基本的には契約不適合責任が認められやすいといえます。
また傾斜の原因によっても考え方が異なります。たとえば地盤沈下が起こったことが原因の場合、そもそも傾斜と建物の老朽化との間に因果関係がありません。築年数に限らず契約不適合責任が認められやすいでしょう。
建物の傾きについての裁判例には以下のようなものがあります。
このケースでは、地盤の不同沈下によって建物の傾斜が生じていました。裁判所は「本件建物の傾斜は老朽化ではなく地盤の不同沈下によって生じたものである。買主が傾斜を承知で買い受けたり価格が傾斜を織り込んだものであったりなどの事情がない限りは瑕疵と認めるべきである」として売主に瑕疵担保責任を認めました(千葉地裁松戸支部平成6年8月25日)。
建物が老朽化していると、雨漏りが生じるケースも多々あります。
雨漏りが発生しているとどのように契約不適合責任が認定されるのか、裁判例をみてみましょう。
このケースでは築38年のマンションにおいて、暴風雨の際に雨漏りが発生しました。
裁判所は以下のような理由から雨漏りに付いての瑕疵担保責任を否定しました(東京地裁平成26年1月15日)。
老朽化した建物の場合、エレベーターなどの付帯設備の性能が低下してしまうケースがよくあります。付帯設備の性能低下についてはどのように判断されたのか、裁判例をみてみましょう。
築後28年のマンションにおいてエレベーターの性能低下が発生していたケースです。
この事例で裁判所は以下のように述べて瑕疵担保責任や売主及び媒介業者の不法行為責任を否定しました。
建物が老朽化した場合、自然に劣化した範囲の欠陥については契約不適合責任が発生しないと考えるべきです。
ただどこまでが自然劣化の範囲なのかについては専門的な判断を要するでしょう。
当事務所では不動産トラブルに力を入れて取り組んでおり、知識やノウハウを蓄積しております。不動産売買で困ったときにはお気軽にご相談ください。