事故物件を売却する場合、心理的瑕疵にもとづく契約不適合責任や告知義務に注意が必要です。
過去に事件や事故が起こったにもかかわらずそのことを告げずに契約してしまったら、売主は後から代金減額請求や解除、損害賠償請求などをされる可能性があります。
買主の方にとっても、売買の目的物で過去に事件や事故が発生していたら、気持ちよく過ごすことができないでしょう。転売する際の物件価格も近隣の相場より低くなってしまいます。
ただし過去に事件や事故が起こったとしても、永遠に契約不適合責任や告知義務が発生し続けるわけではありません。
この記事では事件や事故があった後にどのくらいの期間、契約不適合責任や告知義務が残るのかを解説します。
目次
事故物件に関する告知義務とは、物件の貸主や売主が借主や買主に対し、事故物件であることを告げるべき義務です。
物件に心理的瑕疵があると、通常人は物件を借りたり購入したりしたくなくなるものです。
賃借・購入するとしても相場より低い価額を設定したいと考えるでしょう。
それにもかかわらず貸主や売主が物件の心理的瑕疵を告げずに契約すると、借主や買主が不当な不利益を受けてしまいます。そこで貸主や売主には物件の心理的瑕疵についての告知義務が課されるのです。
心理的瑕疵とは、過去に物件内で事故や事件が起こり、通常一般の感覚では「借りたくない」「買いたくない」と感じる事情です。
たとえば物件内で自殺や殺人などが発生すると、その物件は心理的瑕疵のある物件とみなされます。
貸主や売主が心理的瑕疵の告知義務を果たさなかった場合、何が起こるのでしょうか?
貸主や売主が心理的瑕疵の告知義務を果たさなかった場合、貸主や売主は債務不履行の状態になります。よって借主や買主により、契約を解除される可能性があります。
買主や借主に損害が発生した場合には、損害賠償請求が行われる可能性もあります。
売買契約の場合、きちんと相手に事故物件の心理的瑕疵を告げないと、契約不適合責任を問われる可能性もあります。契約不適合責任とは、売買の対象物が契約の目的に一致していない場合に売主に発生する責任です。
買主は解除や損害賠償請求に加えて、修補請求や代金減額請求ができます。
事件や事故が発生するとその物件は事故物件となり、心理的瑕疵が認められます。ただし永遠に告知義務や契約不適合責任が発生し続けるわけではありません。
時間が経過すると、だんだんと事件や事故による影響が小さくなっていくからです。
以下では事故や事件の発生時からの経過年数が契約不適合責任にどのような影響を及ぼすのかみてみましょう。
まずは契約不適合責任が発生する要因となる「瑕疵」が残ると判断された裁判例をご紹介します。
一方、時間の経過によって瑕疵が残らないと判断された事例をご紹介します。
なおいずれの事案も建物はすでに解体されています。
上記のように、経過する時間が長くなると瑕疵は認定されにくくなる傾向があります。
ただし瑕疵があるかどうかは時間の経過のみによって決まるのではなく「建物がすでに解体されているか」「自殺か殺人か」などの要素も大きく影響しています。
事故物件かどうか判断するのは容易ではないので、迷ったときには弁護士へ相談しましょう。
不動産を売買するのか賃貸するのかによっても、瑕疵の残存期間が変わってきます。
売買の場合の買主は賃貸の場合の売主より物件への関心が強いと考えられるので、売買の方が長く告知義務が残ると判断される傾向があります。
マンションなどの集合住宅の場合、「隣の部屋で自殺が起こった」ケースも考えられます。
基本的に隣の部屋で自殺が起こった場合、瑕疵に該当せず告知義務はありません。
売主が告知せずに買主が購入したとしても、契約不適合責任は問えないと考えましょう。
不動産は複数の人によって使われる予定があるものです。
賃貸の場合には、ある人に貸してその後その人が退去し、別の人が入居してくるのが一般的です。売買でも、ある人に売却してその後その人がまた別の人へ転売するケースがよくあります。
このように「間に1人入った」場合には、基本的に契約不適合責任が発生しないと考えられています。間に1人入ることにより、心理的な抵抗感が小さくなると考えられるためです。
以上のように、事故物件の心理的瑕疵についてはさまざまな裁判例が集積されています。
個別のケースで事故物件に該当するかどうかは、類似する裁判例を調べなければならない状況でした。
このような調査は誰にでもできるものではなく不便なので、2021年10月8日、国土交通省によって「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が策定されました。
一般的に「事故物件ガイドライン」とよばれるケースが多いので、ここでもそのように呼称します。
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001426603.pdf
以下で事故物件ガイドラインが告知義務についてどのように定めているのかみてみましょう。
自然死の場合には基本的に告知義務の対象外とされています。
事故死の場合「自宅の階段からの転落や入浴中の溺死、転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活のなかで生じた不慮の事故による死亡」は日常で当然に起こりうるものなので、原則的に告知義務対象外とされています。
ただし「死亡後、長期間にわたって放置されたなどの事情があって特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合」などには事故死でも告知義務が認められます。
事故物件ガイドラインでは、不動産を売却する場合の自殺や殺人が起こった場合の告知義務について、半永久的と定めています。
実際の裁判例でも、事件から50年が経過しても瑕疵があると認定されたケースがあるのは上記の通りです。
ただし不動産がいったん別の人の手に渡った場合などには瑕疵が薄れて告知義務がなくなると考えられています。
対象物件が事故物件かどうかの判断は簡単ではありません。ガイドラインがあるとはいえ、専門家でないと適切な判断は難しくなるでしょう。事故物件に該当する可能性のある不動産を売りたい・買いたい方などはぜひとも一度、弁護士までご相談ください。