事故物件と契約不適合責任について~心理的瑕疵と契約不適合責任の関係~

不動産売買の目的物が事故物件だった場合、買主は売主に対し「契約不適合責任」を問える可能性があります。事故物件とは、過去に自殺や殺人などの事件が起こった不動産です。ただし事件や事故が起こった物件でも、必ず契約不適合責任を問えるわけではありません。

この記事では事故物件とは何か、事故物件における契約不適合責任がいつまで発生するのか、弁護士が解説します。

これから不動産の売買や賃貸をしようとしている方はぜひ参考にしてみてください。

1.事故物件とは

事故物件とは、過去に自殺や殺人などの事件・事故が起こった不動産をいいます。

「訳あり物件」といわれるケースもよくあります。

一般的に自然死は含まれませんが、自然死であっても長期間発見されず特殊清掃などが必要になったら、買主や借主に著しい嫌悪感を抱かせるので事故物件といわれることがあります。

事故物件の典型例
●過去に人が自殺したマンションの部屋
●過去に殺人事件が起こったアパート

2.心理的瑕疵とは

事故物件には「心理的瑕疵」があるといわれます。

心理的瑕疵とは、人が通常購入したり借りたりしたくない、と感じる欠陥です。
たとえば「過去に殺人事件が起こった」と知っていれば、通常買主は買いたくないと考えるでしょう。よってそういった事故物件には「心理的瑕疵」があるといわれます。

2-1.瑕疵とは

瑕疵(かし)とは、わかりやすくいうと「欠陥」を意味します。また、ある物が通常有している性能を有していない場合にも瑕疵といいます。

欠陥には物理的なものと心理的なもの、法律的なものの3種類があります。

物理的瑕疵

物件における物理的な欠陥です。たとえば以下のようなものが物理的瑕疵になります。
●物件にシロアリが巣食っている
●天井に欠陥があって雨漏りがする
●建物が傾いている

心理的瑕疵

心理的瑕疵は、人が通常契約したくないと考えるような心理面に影響を与える欠陥です。

物理的には問題のないきれいな物件でも、心理的な問題を抱えていると心理的瑕疵があるといわれます。
●過去に物件内で自殺が起こった
●過去に物件内で殺人事件が起こった

法律的瑕疵

法律的瑕疵とは、物理面や心理面で問題がなくても法律による制限がある状態です。

たとえば以下のような場合が該当します。
●建築基準法により建物を再築できない
●条例により分筆や売却に制限がある

2-2. 事故物件には心理的瑕疵がある

一般的に、事故物件には「心理的瑕疵」があると考えられています。

事故物件を売却する場合や賃貸に出す場合には、「心理的瑕疵」という一種の欠陥があるということです。

3.心理的瑕疵と告知義務

心理的瑕疵のある物件を売ったり貸したりする場合には、売主に「告知義務」が課されます。

告知義務とは、売主や買主が取引相手に契約目的物の重要事項について告げなければならない義務です。

事故物件の場合、「事故物件と知っていたら契約しなかった」という人も多いでしょう。そこで売主や買主には信義則上、事故物件について告げるべき義務が課されるのです。

また、事故物件であることを告げずに契約すると、後に買主や借主から契約を解除されたり損害賠償請求されたりする可能性もあります。損害賠償請求や解除ができることを「契約不適合責任」といいます(契約不適合責任については次の項目で詳しく説明します)。

以上より事故物件を売り出したり賃貸に出したりする際には、売主や貸主は取引相手へ事故物件であることを告げなければなりません。

4.契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、契約の対象物が契約目的に合致していない場合に売主が負う責任です。

たとえば物件にシロアリが巣食っていたら、通常は契約目的に合致しているとはいえないでしょう。買主は売主へ契約不適合責任を問えます。

契約不適合かどうかの判断要素

すべての事件や事故物件の場合に契約不適合になるとは限りません。

心理的瑕疵によって契約不適合といえるかどうかについては、以下のような判断要素によって判定します。

売買の目的物の種類(土地か建物か)
買主の購入目的(居住目的、賃貸物件、収益物件など)
売買の目的物にまつわる歴史的背景
事件や事故の内容、態様や場所(売買の目的物である物件内での自殺、建物からの飛び降り自殺、マンションの共有部分における自殺など)
事件や事故の発生時期から契約締結までの経過年数
事故現場のその後の状況(その後、取り壊されて再築などされていないか、利用形態など)
契約不適合を反映した取引価額
買主が事故物件であることを知ってどのような感情を抱いたか、通常一般人についても買主と同様の感情を抱くことに合理性があるか、周辺住民の記憶の有無など

上記の基準はいずれか1つだけで判断できるものではなく、複数の基準を組み合わせて判断する必要があります。

たとえば過去に自殺の起こった建物がすでに解体されたケースでは「瑕疵があるとはいえない」と判断された事例があります(大阪高裁昭和37年6月21日)。

一方で、殺人事件の現場となった建物を解体して敷地であった土地を分割して分譲したケースでは、土地に約50年前の殺人事件のあったことが「瑕疵にあたる」と判断されています(東京地裁八王子支部平成12年8月31日)。

また取引金額について、はじめから心理的瑕疵があることを反映した安い金額になっていたら、契約不適合責任は発生しにくくなります。

心理的瑕疵によって契約不適合責任が発生するかどうかの判断はケースバイケースなので、迷ったときには弁護士などの専門家へ相談しましょう。

5.契約不適合責任で問える責任内容

購入した物件で過去に事件や事故が起こったことが明らかになったら、相手へ契約不適合責任を問える可能性があります。具体的に請求する方法をみてみましょう。

5-1.修補請求、追完請求

契約不適合責任では、まずは目的物の修補請求や追完請求を行うルールになっています。

たとえば建物に傾きがある場合に修理を要求する場合などです。

ただ事故物件の心理的瑕疵の場合には、物件の修理では対応できません。追完請求によって買主が救済されるのは難しいでしょう。

5-2.代金減額請求

物件に契約不適合があり、修補請求を行っても対応されない場合やそもそも修理が不可能な場合などには、買主は売主へ代金減額請求ができます。

事故物件の場合、通常一般に出回っている類似物件とくらべて心理的瑕疵がある分、売買代金減額を請求できる可能性があります。

5-3.解除

契約不適合責任では、契約の解除も可能です。

売主が買主へ事故物件であったことを隠して売却した場合、後に買主は売主へ契約の解除を主張できる可能性があります。

5-4.損害賠償請求

契約不適合責任では、買主は売主へ損害賠償請求もできます。

買主が事故物件を購入してしまったことによって損害を被ったら、売主は損害賠償請求される可能性があります。

6.契約不適合責任の期間

契約不適合責任には存続期間があります。

民法の規定によると、「買主が契約不適合を知ってから1年以内に売主へ通知」しなければなりません。通知さえすればよいので、権利の実現までは1年以内にする必要が有りません。

ただし個別の契約では契約不適合責任の期間が短縮されたり契約不適合責任そのものが免除されたりするケースもよくあります。

買主が不動産を購入する際には、対象物に心理的瑕疵となる事情がないかなど、慎重に調査する必要があるでしょう。また売主側には心理的瑕疵の告知義務があるので、把握している事情については隠さずに伝えるべきです。

事故物件と心理的瑕疵による契約不適合責任については他にもさまざまな問題があります。

次回は事故発生時からの経過年数と心理的瑕疵に関する裁判例などをご紹介しします。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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