不動産仲介業者は、不動産の売買契約の仲介を行い、それにより不動産売買契約が成立したときに仲介手数料を請求することができます。そのため、仲介手数料を確保するという観点からは、いつ売買契約が成立するのかが重要な問題となります。
売買契約を締結すれば契約が成立するのは当然ですが、実際にはそれ以前の段階であっても売買契約が成立したと評価できる可能性もあります。
今回は、売買契約の取引の流れと契約成立時期をわかりやすく解説します。
目次
建物所有者が中古住宅を売却しようとする場合、不動産仲介業者に売却相談をすることから始まります。
仲介業者は、取引物件の現況確認、物件調査、周辺の取引事例などを参考に取引価格を査定し、売主に提示します。売主は、仲介業者から提示された査定価格を参考に、中古住宅の売却を進めるかどうかを検討します。
売主は、中古住宅の売却を決めたときは不動産仲介業者との間で媒介契約を締結します。仲介業者は、売却仲介の委託を受けるにあたっては、以下の事項を説明し、媒介契約書を締結します。
仲介業者は、委託を受けた物件を広告(チラシ、ホームページ)に掲載したり、同業者へ物件情報として提供するとともに指定流通機構(レインズ)に物件登録するなどして販売活動に着手します。
仲介業者は、広告を見た買受希望者や買主が委託した仲介業者から問い合わせがあれば物件資料を提供し、現地の案内を行います。
買主が当該物件を気に入り、購入希望条件を示したら、売買価格などの取引条件に付いての契約交渉に入ります。
仲介業者は、いわゆる冷やかし客でないことを確認するために買付証明書の交付を求めることが多いです。主要な取引条件で合意に至ったら売渡承諾書(売渡証明書)と買付証明書を交換することもあります。
買主との間で契約条件についての合意がまとまったら、売買契約の締結を行います。宅建業者には、売買契約成立時に所定の事項を記載した書面(37条書面)を遅滞なく交付することが義務付けられています。
取引実務では、37条書面に代えて、仲介業者が用意した売買契約書を締結するのが一般的です。
売買契約の成立により仲介手数料が発生します。取引実務では、契約締結時に仲介手数料の半額、決済時に残額を支払うのが一般的です。
買付証明書とは、物件の購入希望者が購入する意思があることを示すために売主に提出する書類です。
売渡承諾書とは、売主が物件の売却意思があることを示すために購入意思を示した買主に提出する書類です。
買付証明書や売渡承諾書には、売買代金や手付の額など主要な取引条件が記載されていますが、「契約内容については別途協議して定める」などの文言も付記されており、当事者間で引き続き取引条件に付いての協議を行い、売買契約を締結することを予定しています。
そのため、買付証明書や売渡承諾書の交付・交換は、契約交渉過程において基本的な取引条件を確認し、将来の売却または買受希望のあることを表明するものに過ぎず、確定的に売却や買受の申込みの意思を表明するものではありません。
そのため、買付証明書や売渡承諾書の交付・交換があっただけでは契約の成立は認められないでしょう。
不動産取り纏め依頼書とは、不動産売買において、買受希望者が仲介業者に対して、希望の購入条件を記載して提出する書類になります。
このような不動産取り纏め依頼書は、不動産の購入を希望する意向を示したものにすぎませんので、売買契約が成立したものとは認められません(東京地裁平成26年12月18日判決)。
不動産売買では、正式な売買契約を締結する前のタイミングで、仮契約書の取り交わしをすることがあります。仮契約書とは、基本的な条件が決まった段階で締結するものであり、「今後具体的な条件を協議し、正式な契約を締結する」などの条項が設けられているのが一般的です。
このような仮契約書の締結がなされたとしても、今後も交渉が予定されている場合には、売買に関する最終的かつ確定的な意思表示の合致とはいえませんので、売買契約の成立は認められません。
分譲マンションや商業施設などの事業用建物の建設用地の売買では、契約締結に至るまでの交渉に相当な期間を要し、多岐にわたる事項を協議する必要があります。そのため、所有者と買受希望者との間で契約交渉が一定の段階に達したときに、買付証明書の交換にとどまらず、協定書(基本協定書、基本合意書)などと題した書面を締結することが多いです。
協定書では以下の事項を取り決めます。
協定書を締結する趣旨・目的からすると、引き続き契約交渉を続けることを予定しているため、協定書では当事者において最終的な意思表示の合致が留保されています。そのため、協定書の締結をもって売買契約が成立したとはいえません。
契約交渉過程で取引条件が協議・調整されるのと並行して、仲介業者は、売買契約書案を当事者双方に示して、細部の条項の検討に入ります。
売買契約書案を検討することは、契約締結に向けての具体的な準備行為であり、売買契約を締結するとの当事者の確定的な意思を根拠づけるものといえます。しかし、売買契約書の按分を交付した段階では、いまだ売買契約が成立したものと評価することはできません。
契約交渉過程において売買契約を取り交わさないまま買受希望者から売却希望者に対し、金員が交付されることがあります。実際に契約締結に至れば、内金として充当されることになりますが、売買契約書の締結に至らず、買受希望者から売却希望者に対して、金員の返還が求められることがあります。
このようなケースについて、売買代金が確定しないまま交付された金員を「手付金」と認定し、契約の成立を認めた事案(東京地裁平成5年12月24日判決)がある一方で、手付金ではなく預託金として契約の成立を否定した事案も存在します(東京地裁平成19年10月11日判決)。
【事案の概要】
仲介業者Xは、買受希望者YからAが所有する土地の買受仲介の依頼を受けました。
当時、国土法に基づく事前届出を要し、知事から不勧告通知を受けるまで売買契約締結が禁止されていたため、AとYは、売渡承諾書と買受申込書の交換を行いました。
その後、不勧告通知があり、売買契約の締結ができる状態になったため、A側の仲介業者Bが売買契約の締結を促したが、Yは内部事情を理由に契約交渉を打ち切りました。そこで、Xは不勧告通知を停止条件とする売買契約が成立し、不勧告通知により条件が成就したとして、Yに対して仲介手数料の請求を行いました。
【裁判所の判断】
売渡承諾書および買受申込書の交換があったものの、それは、不勧告通知後に正式に売買契約を締結することを当然の前提として合意された事項を基本事項として契約締結に向けて努力することを誓約する意味で行われたものにすぎず、その後に契約書の締結が予定されているような場合には、契約書が作成されて初めて契約が成立したというべきであるとして、契約の成立を否定し、Xの仲介手数料の請求を棄却しました。
不動産仲介業者にとって仲介手数料は、重要な収入源となります。売買契約の成立の有無によって仲介手数料を請求できるかどうかの結論が変わってきますので、不動産売買契約の成立時期がいつになるかは重要な問題といえます。
基本的には、売買契約書の締結により契約が成立することになりますが、具体的な事情によっては、それ以前の段階でも売買契約の成立があったものと評価できるケースもあります。どのようなケースがそれにあたるかは法的観点から判断する必要がありますので、正確に判断するためにもまずは弁護士に相談するようにしましょう。
仲介手数料を請求できるケースであっても、売買契約締結に至る経緯によっては、当事者から仲介手数料の支払いを拒否されることがあります。
いくら催促しても支払いに応じてくれない場合は、当事者同士の交渉では解決は困難だといえますので、弁護士に対応を委ねるべきでしょう。弁護士が窓口となって交渉をすれば、それまで頑なに支払いを拒絶していた相手も任意に支払いに応じてくれる可能性があります。また、交渉で解決できないケースについては、調停や裁判などの法的手続きにより解決することも可能です。
不動産の売買契約の成立時期は、基本的には売買契約書の締結時点となりますが、具体的な状況によってはそれ以前のタイミングでも契約の成立が認められる可能性もあります。そうなれば売買契約書の締結に至っていなかったとしても、仲介手数料を請求できますので、不動産仲介業者にとって非常に重要な問題といえるでしょう。
このような不動産売買契約の成立時期に関しては、法的観点からの検討が必要になりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。不動産業に詳しい弁護士をお探しの方は、ダーウィン法律事務所までお気軽にご相談ください。
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