社員による不正行為は、企業価値に大きな影響を及ぼしますので、不正行為が判明した場合には、早期に適切な対処をすることが求められます。対応を誤ってしまうと、不正行為をした社員から訴えられてしまったり、企業価値が低下するなどのリスクが生じますので、どのような対応が必要になるのかを理解しておくことが大切です。
今回は、不動産会社の社員による不正が発覚した場合の対処法と注意点について、わかりやすく解説します。
目次
不動産会社では、多額の現金のやり取りをしますので、社員による横領が行われることがあります。経理担当の社員であれば、帳簿や入出金データを書き換えることで、会社にバレずに自分名義の口座にお金を移動することがありますし、顧客からの手付金や預り金の一部を着服してしまうこともあります。
また、会社で発注した備品や資材などを会社に無断で窃取するなどの行為も行われることがあります。
このような不正行為は、刑法上の業務上横領罪(刑法253条)や窃盗罪(刑法235条)といった犯罪行為に該当します。
リベートとは、顧客獲得や販売促進のために使用される戦略的な返金や割引のことをいいます。このようなリベートの授受自体は、他の法令に違反していない限りは、基本的には自由に行うことができます。
しかし、不動産会社の社員が会社に黙って顧客や取引先からリベートを受け取っていた場合、会社側にはリベート分の損害が発生しますので、リベートの授受は社員による不正行為に該当します。
不動産会社では、顧客を紹介した見返りとして内密にリベートの授受が行われることも少なくありません。このような行為を放置していると不動産会社の評判を低下させる可能性もありますので注意が必要です。
不動産会社は、多くの顧客の個人情報を取り扱っていますので、社員により個人情報が持ち出されて外部に流出してしまうと、会社の信用性は大きく失墜してしまいます。また、外部に未公表の物件情報がある場合、社員により競業他社に情報が売却されると、取引の機会を失い大きな損失を被る可能性があります。
このような不動産会社の機密情報の漏洩も社員によるよくある不正行為の一つとなります。
不動産会社の社員による不正行為は、社内の不正行為に限られるものではありません。痴漢、盗撮、飲酒運転など社外での犯罪行為があった場合にも、自社の社員による犯罪行為であることが公表されてしまうと、会社として大きな損害を被る可能性があります。
そのため、社員の私生活上の犯罪行為があった場合にも、適切な対処が必要になります。
懲戒処分とは、企業秩序に違反した社員に対する制裁として行われる不利益処分です。会社にとって企業秩序や職場規律の維持は極めて重要です。不正行為をそのまま放置していると、企業秩序が乱れ、他の社員に対しても悪影響が生じる可能性があります。そのため、不正行為をした社員に対しては、相応の制裁を下す必要があります。
懲戒処分には、主に以下のような種類があります。
不正行為をした社員に対して懲戒処分を行うためには、まずは懲戒事由と懲戒の種類が就業規則で明記されていることが必要です。また、実際の懲戒が社員の不正行為の性質・態様、その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を書き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権の濫用として、懲戒処分が無効になる可能性があります。
社員による不正行為があると、懲戒解雇をしたいと考える経営者も少なくありません。しかし、不正行為の内容に比べて重すぎる処分を下してしまうと、当該社員から違法な懲戒解雇であるとして訴えられてしまうリスクがありますので注意が必要です。
社員による不正行為によって会社に損害が発生した場合には、当該社員に対する損害賠償請求を検討する必要があります。
社員に対して損害賠償請求を行う場合には、当該社員の所有資産を調査し、必要に応じて自宅や預金などに対する仮差押えを行い、最終的に民事訴訟を提起して強制執行により損害の回復を図ることになります。民事訴訟となれば、コストや時間がかかるため躊躇してしまう経営者の方も少なくありません。しかし、不正行為に対する厳格な対応方針を示すことにより、再発防止につながる効果も期待できますので、しっかりと対応していくことが大切です。
従業員による不正行為が犯罪行為に該当する場合には、刑事処罰を求めるために、刑事告訴の検討を行う必要があります。不正行為をした社員との間で示談が成立すれば、刑事告訴まで必要ないケースもありますが、不正行為が悪質であったり、被害額が大きく弁償も行われていないような場合は、刑事告訴が必要になるでしょう。
ただし、刑事事件として警察による捜査が開始するとマスコミにより社員の不正行為が報道されるリスクがあり、会社の社会的信用が低下するおそれもありますので、慎重に判断するようにしましょう。
社員による不正行為の疑いが生じたときは、不正行為が事実であるか、どのような被害が生じているのかの調査を行います。
事実関係の調査方法としては、社内で独自に行う社内調査と弁護士などの第三者機関に委ねる第三者調査の2種類があります。不正行為の調査に関する専門的知識がない社員による社内調査では、事実関係を適切に把握することができず、不正行為をした社員による証拠隠滅のリスクがありますので、第三者調査を利用するのがおすすめです。
事実関係の調査にあたっては、当事者からのヒアリングだけでなく、不正行為を裏付ける客観的な証拠を収集することが重要です。本人が不正行為を認めていたとしても、後に不正行為を否認する可能性がありますので、不正行為を立証できる十分な証拠を集めておくようにしましょう。
特に、PC、業務用のスマートフォン、メールなどは容易に証拠隠滅が可能ですので、優先的に証拠保全を行うようにしましょう。また、不正行為の調査中は、本人に対して自宅待機命令を出すことで、物的証拠の隠滅や口裏合わせなどを防ぐことができます。
社員による不正行為があった場合、必ず社外に公表が必要になるわけではありません。
しかし、法律上の公表義務がなかったとしても、社員による不正行為がマスコミ報道などにより発覚するとレピュテーションリスクなどを招く危険もありますので、状況によっては積極的に会社側から情報発信した方がよいケースもあります。
社外に向けた公表を行うかどうかについては、慎重な判断が必要になりますので、専門家である弁護士と相談しながら検討していきましょう。
事実関係の調査の結果、社員による不正行為が明らかになった場合、当該社員に対する懲戒処分の検討を行います。
懲戒処分を行う際には、複数ある懲戒処分のなかから不正行為の内容や悪質性などに応じた適切な処分を選択することが必要です。また、懲戒処分を行う際には適正手続きの保障が要求されますので、対象となる社員に弁解の機会を与える必要があります。
不動産会社としては、不正行為をした社員に対して処分を下すだけでなく、今後同様の不正行為が再発しないようにするためにも、再発防止策を講じることが重要です。
しっかりと再発防止策を講じていることを、外部に公表すれば、社員の不正行為により失われた信用も回復するといえるでしょう。
不正行為をした社員に対しては、懲戒処分や損害賠償請求を行う可能性がありますので、法的観点から不正行為の有無を調査しなければなりません。十分な根拠に基づかずに懲戒処分をしてしまうと、社員から逆に訴えられてしまうリスクがありますので、不正行為の調査は、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
弁護士であれば、将来の懲戒処分や損害賠償請求を前提に、必要となる証拠収集や事実関係の調査を行うことができますので、法的観点から不正行為の有無を明らかにしていくことができます。
社員の不正行為により会社に損害が生じた場合、当該社員に対する損害賠償請求を行うことになります。不動産会社では取り扱う商品が高額ですので、不正行為により生じる損害も高額になる傾向にあります。そのため、当事者同士の話し合いでは解決できず、民事訴訟の手続きが必要になるケースも少なくありません。
このような法的対応が必要なケースでは、不動産会社の担当者だけでは適切に対応できず、負担も大きくなりますので、専門家である弁護士に任せるとよいでしょう。
不動産会社の社員による不正行為が発覚した場合、すぐに適切な対応をとらなければ、会社の社会的信用が大きく低下するリスクがあります。どのような対応が必要になるかは、具体的な事案によって変わってきますので、まずは専門家である弁護士に相談するようにしましょう。
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