どこからが非弁行為?不動産会社が問題になりやすい非弁行為を解説

どこからが非弁行為?不動産会社が問題になりやすい非弁行為を解説

賃貸物件の管理業務を行う不動産会社では、賃料交渉、未払い賃料の督促、立ち退き・明け渡し請求などを行うことがありますが、これらの業務は弁護士法に違反する非弁行為に該当する可能性があります。非弁行為に該当すると、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」という刑罰が科されますので、十分に注意して行動しなければなりません。

では、具体的にどのような行為が非弁行為に該当するのでしょうか。

今回は、不動産会社が問題になりやすい非弁行為についてわかりやすく解説します。
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1、不動産会社が問題になりやすい非弁行為とは


弁護士
荒川 香遥
「非弁行為」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。まずは、非弁行為の概要と成立要件についてみていきましょう。

(1)非弁行為とは

弁護士法72条では、弁護士でないものが報酬を得る目的で訴訟事件その他の法律事務を行うことを禁止しています。このような弁護士法72条に違反する行為を「非弁行為」といいます。

簡単に言えば、弁護士資格を持っている者でなければできないと法律上定められている行為を弁護士資格のない人が行うことが非弁行為にあたります。弁護士が取り扱う法律事務は、法的知識がなければ適切に処理することができないものが多く、無資格の人による法律事務の処理が横行すると、不適切な処理により多くのひとに不利益が生じてしまいます。

そのような事態を防ぐために弁護士法では、非弁行為を禁止しています。

(2)非弁行為の成立要件

弁護士法72条で禁止されている非弁行為は、以下のものになります。

表

以下では、上記の非弁行為の定義に含まれる各項目について説明します。

①報酬

報酬は、必ずしも金銭に限らず、金銭の代わりに物をもらったり、接待されることなども報酬に含まれます。また、報酬の名称や額を問わず、対価として支払われているものであれば報酬にあたります。

②法律事件

法律事件とは、法律上の権利義務に争いがある案件や新たな権利関係が発生する案件をいいます。

③法律事務

法律事務とは、法律相談、代理人としての活動、契約書の作成などをいいます。

④周旋

周旋とは、紹介のことをいいます。

⑤業とする

業とするとは、反復的または反復継続の意思をもって法律事務の取り扱いなどを行い、それが業務性を帯びるに至った場合をいいます。たとえ一度きりの行為であったとしても、反復継続する意思が認められれば、「業とする」といえます。

2、不動産会社の業務が非弁行為となり得るケース


弁護士
荒川 香遥
上記の非弁行為の定義を踏まえると、不動産会社が行う業務のうち、どのような業務が非弁行為に該当する可能性があるのでしょうか。以下では、不動産会社の業務が非弁行為となり得るケースを紹介します。

(1)賃料交渉

賃貸物件の管理業務を行う不動産会社では、賃貸物件のオーナーに代わり、賃借人との間で賃料交渉を行うことがあります。

賃貸物件のオーナーが賃料を増額する意向があるということを、不動産会社が賃貸物件のオーナーに代わって賃借人に伝えるだけであれば非弁行為に該当する可能性は低いです。しかし、賃借人が賃料の増額に応じない意向を示しているにもかかわらず、増額に応じるよう交渉を行うのは、権利義務に関する争いに関して法律事務を行う場合に該当する可能性があります。増額交渉に関して賃貸物件のオーナーから特別な報酬を得ていなかったとしても、管理費などの名目で毎月報酬を得ており、今後も管理業務を委託してもらえるという関係性が継続すること自体が報酬といえますので、非弁行為に該当する可能性が高いでしょう。

(2)未払い賃料の督促

賃借人が賃料の支払いを怠り、滞納している場合、不動産会社が賃貸物件のオーナーに代わって、賃借人に未払い賃料の督促を行うことがあります。不動産の管理契約に付随するサービスとして未払い賃料の督促を行っている会社も多いですが、このような督促業務は程度によっては非弁行為として違法になる可能性もありますので注意が必要です。

特に、賃借人が長期間賃料の滞納をしており、賃料を支払わない意思が明確になっている状態で、未払い賃料の督促を行うと権利義務に関する争いに関して法律事務を行う場合に該当しますので、非弁行為に当たる可能性が高いといえます。

(3)立ち退き・明け渡し請求

賃料を滞納する賃借人がいる場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除して建物から立ち退きを求めることができます。しかし、このような立ち退き・明け渡し交渉を当事者ではない不動産会社が行ってしまうと、非弁行為に該当する可能性がありますので注意が必要です。

立ち退き交渉を行う場合、立ち退きをするかどうか、立ち退きの時期、立退料の金額など交渉により解決しなければならない法的紛争が生じることは避けられません。これらは弁護士法72条の「法律事件」に該当するといえますので、賃貸物件のオーナーから委託を受けて不動産会社が立ち退き・明け渡し交渉をするのは、非弁行為に該当する可能性が高いでしょう。

3、非弁行為に該当した場合の不動産業者の責任


弁護士
荒川 香遥
非弁行為に該当する業務を行ってしまった場合、不動産業者にはどのような責任が生じるのでしょうか。以下では、非弁行為に該当した場合の不動産業者の責任について説明します。

(1)刑事上の責任

不動産業者の業務が非弁行為に該当すると判断された場合、弁護士法72条違反として、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。

(2)民事上の責任

不動産会社が非弁行為をした場合、直ちに民事上の効力が否定されるわけではありません。しかし、事案によっては非弁行為により相手方と合意した内容の効力が否定される可能性もありますので注意が必要です。

また、非弁行為により賃貸物件のオーナーや賃借人に損害を与えた場合には、不法行為に基づいて損害賠償請求をされる可能性もあります。

このように非弁行為は、刑事上および民事上のリスクがある危険な行為ですので、どのような行為が非弁行為に該当するのかをしっかりと理解して業務を行っていくようにしてください。

4 不動産会社の非弁行為が問題になった判例|最高裁平成22年7月20日決定

【事案の概要】
この事案は、弁護士資格がない不動産業者が、ビルの所有者から委託を受けて、ビルの賃借人らと交渉をして、賃貸借契約を合意解除した上で、各室を明け渡すよう求めるなどの業務を行ったことが、非弁行為に該当するとして、弁護士法72条違反の罪に問われた事案です。

【裁判所の判断】
弁護士資格等がない者らが、ビルの所有者から委託を受けて、そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為については、その業務が、立ち退き合意の成否等をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであって、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものというべきであり、その際、賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いをしていたなどの本件における具体的事情の下では、同条違反の罪が成立すると判断しました。

5、非弁行為のリスクを避けるためにも弁護士に相談を


弁護士
荒川 香遥
非弁行為に該当するかどうか疑問が生じたときは、自分で判断して行動する前に、弁護士に相談することをおすすめします。

(1)弁護士に依頼すれば非弁行為のリスクがない

不動産会社が行う業務の中には、非弁行為に該当するリスクの高い行為が多数含まれています。これまで問題視されたことがなかったとしても、たまたま取り締まりがされていなかっただけであり、違法な非弁行為である可能性もあります。

非弁行為に該当する業務を続けるのは非常にリスクの高い行為といえますので、このような法律事務については、専門家である弁護士に依頼するのが安心です。弁護士であれば、正当な資格をもって法律事務を取り扱うことができますので、非弁行為により処罰されるリスクを回避することができます。

(2)トラブル解決に向けたアドバイスを受けられる

弁護士法72条により非弁行為が禁止されているのは、法律上のトラブルについては、弁護士でなければ適切に解決することが困難だからです。

不動産業者が直面する未払い賃料や立ち退き・明け渡しのトラブルも法的知識や経験がなければ適切に処理することができません。誤った対応によりトラブルが深刻化してしまう前に、まずは弁護士に相談して、トラブル解決に向けたアドバイスを受けるようにしましょう。

6、まとめ


弁護士
荒川 香遥
どのような業務が非弁行為に該当するかは、判断が難しいものもあります。自分では判断できないという場合は、弁護士に相談するようにしましょう。

不動産業者が行う賃料交渉、滞納家賃の督促、立ち退き・明け渡し交渉などは、弁護士法72条が禁止する非弁行為に該当する可能性があります。非弁行為に該当する行為をすると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる可能性もありますので、慎重に判断して行動しなければなりません。

弁護士であれば、このような非弁行為に該当する可能性のある業務も対応可能ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。不動産業に詳しい弁護士をお探しの方は、ダーウィン法律事務所までお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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