共有不動産は、単独所有の不動産とは異なり、利用や処分にあたって他の共有者と意見の対立が生じるなど、自由な利用・処分が難しいことがあります。共有状態のままだと、将来にわたってさまざまなトラブルが生じるリスクがありますので、早期に共有関係を解消するのがおすすめです。
共有関係を解消する方法の一つとして、「共有持分の放棄」があります。共有持分の放棄は、共有者が単独で行うことができますが、共有持分の放棄後の登記は、共同申請が原則となりますので、共有者単独では行うことができません。他の共有者の協力が得られないときは、登記引取請求訴訟を提起する必要があります。
今回は、共有持分を放棄する際の登記引取請求訴訟の流れと注意点について不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
目次
不動産の所有権を放棄することはできませんが、共有持分であれば本人の意思でいつでも自由に放棄することができます(民法255条)。
共有持分の放棄は、共有者が単独で行うことができますので、他の共有者の同意は不要です。共有持分の放棄する際には、他の共有者に対して、共有持分を放棄する旨の意思表示をすれば足ります。口頭での意思表示でも法的効果は生じますが、一般的には共有持分を放棄する意思表示をしたことを証拠化するために内容証明郵便が利用されています。
共有関係から離脱する方法には、さまざまなものがありますが、共有持分の放棄は、共有者が単独でできる非常に簡単な手段といえるでしょう。
共有持分の放棄により、共有持分の放棄をした共有者の共有持分は、他の共有者が有する共有持分の割合に従って、他の共有者に帰属します。これにより共有持分の移転が生じますので、共有持分移転登記申請を行う必要があります。
しかし、共有持分移転登記申請は、共有持分の放棄をした者と共有持分を取得する者とが共同して申請しなければなりません。他の共有者の協力が得られればよいですが、そうでない場合には共有持分移転登記申請を行うことができません。共有持分移転登記申請をせずにそのまま放置していると、以下のようなリスクが生じます。
・固定資産税が課税される
・共有不動産が原因で第三者に損害を与えた場合には損害賠償責任が生じる
・放棄者が亡くなったときに放棄した共有持分が相続の対象として扱われる可能性がある
上記のような共有持分移転登記申請をせずに放置した場合のリスクを回避するためにも、共有持分の放棄をした場合には、早期に共有持分移転登記申請を行う必要があります。他の共有者の協力が得られず登記申請が行えないという場合には、「登記引取請求訴訟」を利用するとよいでしょう。
登記引取請求訴訟とは、登記事項について登記申請をすべき当事者が手続きに協力してくれない場合に、判決により登記を可能とする手続きです。登記引取請求訴訟により勝訴判決を得て、それが確定すれば、共有持分を放棄した者が単独で登記申請をすることが可能になります。
登記引取請求訴訟を提起するには、被告(他の共有者)の住所地、不動産の所在地、不動産の登記を管轄する地方裁判所に訴状を提出する必要があります。
訴状には、当事者に関する事項以外にも請求の趣旨や請求の原因といった、求める権利の内容とそれを基礎づける事実を具体的に記載していかなければなりません。訴状の作成には、専門的な知識が必要になりますので、自分で対応が難しいと感じるときは、弁護士に依頼するのがおすすめです。
訴状が受理されると裁判所によって第1回口頭弁論期日が指定されます。
原告および被告は、指定された日時に裁判所に出頭し、第1回口頭弁論期日を執り行います。第1回口頭弁論期日では、原告からの訴状の陳述、被告からの答弁書の陳述が行われ、次回以降の期日が指定されます。
争点に関して当事者からの主張立証を尽くすために、通常は複数回の口頭弁論や弁論準備期日が開催されます。
もっとも、共有持分の放棄に伴う登記引取請求訴訟では、共有者による共有持分の放棄があったかどうかが争点になりますので、内容証明郵便などにより共有持分の放棄をしたことが客観的に明らかな事案であれば、早期に審理が終了し、結審となる可能性も高いでしょう。
当事者による主張立証が尽くされた段階で結審となり、裁判所は判決を言い渡します。
登記引取請求を認める内容の判決が出て、判決書送付から2週間以内に当事者双方から控訴がなければ判決は確定となります。
登記引取請求を認める判決が確定後は、共有持分を放棄した者は、確定判決に基づいて単独で共有持分移転登記申請を行うことができます。
共有持ち分の登記引取請求訴訟に勝訴し、確定判決に基づいて共有持分移転登記申請を行うことで、正式に権利者ではなくなりますので、固定資産税の支払い義務を免れることができます。
しかし、固定資産税の課税対象は、その年の1月1日時点の所有者ですので、共有持分を放棄した年の固定資産税については支払わなければなりません。つまり、固定資産税の納税義務を免れるのは、共有持分移転登記申請を行った翌年度からになります。
共有持分を放棄することにより、放棄をした人の共有持分は、他の共有者に帰属することになります。このような共有持分の放棄による権利の帰属は、税法上、「みなし贈与」と扱われています。
すなわち、放棄者から他の共有者に対して、共有持分の贈与があったものとみなされ、共有持分を取得した他の共有者には、贈与税が課税されてしまいます。
ただし、贈与税には、年間110万円までの基礎控除が設けられていますので、共有持分の評価額が110万円までであれば贈与税を負担する必要はありません。
共有持分を放棄した人には、登記引取請求権がありますが、いつまでも権利行使ができるわけではなく、登記引取請求権には時効がありますので注意が必要です。
登記引取請求権も債権の一種ですので、債権の消滅時効が適用され、共有持分放棄の意思表示をしたときから5年で時効になります。時効期間である5年が経過してしまうと、登記引取請求訴訟を提起することができなくなってしまいますので、早めに手続きを進めていくようにしましょう。
共有持分の放棄をするためには、他の共有者に対して、内容証明郵便により共有持分放棄の意思表示を行わなければなりません。また、共有持分放棄の意思表示後は、他の共有者に働きかけて、共有持分移転登記申請への協力を求めていかなければなりません。
共有者との関係性によっては、自分だけでこのような手続きをするのが負担に感じることもあると思います。そのような場合には、弁護士に共有持分の放棄に関する手続きを依頼するのがおすすめです。弁護士に依頼すればほぼすべての対応を弁護士が行ってくれますので、ご自身の負担を大幅に軽減することができます。
他の共有者が共有持分移転登記申請に協力してくれないという場合は、裁判所に登記引取請求訴訟を提起する必要があります。
訴訟手続きは専門的な知識や経験がないと適切に進めていくのが困難ですので、弁護士に対応を任せるべきでしょう。弁護士に依頼すれば訴状の作成、期日対応などすべての手続きを任せられます。
共有持分の放棄は、共有関係を解消する方法の一つです。共有持分放棄には、共有者単独で簡単に共有関係から離脱できるというメリットがありますが、持分を手放す際に一切対価を得られないなどのデメリットがあります。
共有関係を解消する方法には、共有持分放棄以外にも共有関係を解消する方法にはさまざまなものがあり、具体的な状況に応じて選択すべき手段が異なります。最適な手段を選択するためにも、まずは専門家である弁護士に相談するようにしましょう。
共有持分は、共有者が単独でいつでも自由に放棄することができます。しかし、共有持分放棄後の登記手続きには他の共有者の協力が必要になりますので、任意の協力が得られない場合には、登記引取請求訴訟を提起しなければなりません。このような訴訟手続きが必要になると、個人での対応は困難になりますので、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
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