契約不適合責任とは?実際の事例を弁護士がわかりやすく解説

購入した土地や建物に何らかの不具合や欠陥があった場合には、売主に対して、契約不適合責任を追及することができます。契約不適合責任は、2020年の民法改正により新たに導入された制度であり、従前の「瑕疵担保責任」から名称変更をしただけでなく、買主の権利が拡充されるなど多くの変更点があります。

今回は、契約不適合責任の内容について、実際の裁判例を踏まえてわかりやすく解説します。

1、契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、どのような制度なのでしょうか。以下では、契約不適合責任の概要と責任追及の4つの方法について説明します。

(1)契約不適合責任の概要

契約不適合責任とは、契約に基づき引き渡された目的物が契約内容と適合しない場合に、目的物を引き渡した側が負う責任のことをいいます。

契約不適合責任は、2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」が名称変更されたものになりますが、その内容な瑕疵担保責任とは大きく異なってきます。たとえば、瑕疵担保責任では、「隠れた瑕疵」があった場合に売主の責任を追及できましたが、契約不適合責任では、隠れた瑕疵かどうかではなく契約内容に適合しているかどうかが問題となります。

また、瑕疵担保責任では、責任追及の手段は、損害賠償請求と契約解除の2つだけでしたが、契約不適合責任では、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除の4つの手段が認められています。

(2)責任追及の4つの方法

契約内容に適合しない目的物を引き渡された買主は、以下のような手段により売主の責任を追及することができます。

①追完請求権

追完請求とは、引き渡された目的物が種類、品質、数量に関して契約内容に適合しないときに、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを求めることをいいます。

追完請求権は、2020年の民法改正により、新たに認められた買主の権利です。

②代金減額請求権

代金減額請求とは、引き渡された目的物が契約内容に適合しないときに、不適合の程度に応じて代金の減額を求めることをいいます。

代金減額請求をするには、まずは、相当期間を定めて履行の追完の催告を行い、その期間内に履行の追完がないことが必要になります。ただし、履行の追完が不能であったり、履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したときなどは無催告での代金減額請求が可能です。

なお、代金減額請求権も2020年の民法改正により、新たに認められた買主の権利です。

③損害賠償請求権

目的物に契約不適合があったときの損害賠償請求は、債務不履行の一般原則に基づいて行われることになります。損害賠償請求にあたって、買主の善意・無過失は必要ありませんが、不適合が売主の責めに帰すべきものであることが必要です。

④契約解除権

目的物に契約不適合があったときの解除権も債務不履行の一般原則に基づいて行われることになります。

2、裁判例①|購入した土地に地中埋設物が見つかった

購入した土地に地中埋設物が見つかった場合、宅地としての利用に支障がなかったとしても契約不適合責任を追及することができるのでしょうか。以下では、東京地裁令和2年7月22日判決を紹介します。

(1)事案の概要

買主Xは、売主Yから土地と建物を2075万円で購入しました。その際、売買契約には、以下のような定めがありました。

「土地に関して建物を支えることに適していることを確認していますが、植栽・農園等には適さない場合があります。また、土中には自然石を含んでおり、土の入れ替え等が必要な場合は買主の負担になります」

Xは、購入した建物を取り壊すことなくそのまま住居として利用する予定でしたが、引渡し後に土地の状況を調査したところ、地中から多量のコンクリート片などが発見されました。

そこで、Xは、Yに対して、瑕疵担保責任または不法行為に基づいて損害賠償を求めて訴えを提起しました。

(2)裁判所の判断

裁判所は、以下の理由から土地に埋設物があったとしても瑕疵には該当しないと判断しました。
・本件土地は宅地としての利用を目的として売買されたものであり、現に建物が建築されており、建物の敷地として利用することには支障がない
・土地に廃棄物が埋まっていたとしても、売買目的にしたがって利用できるのであれば、土地の瑕疵にはあたらない
・本件土地は、建物の敷地としての利用を予定されており、植栽や農園としての利用は予定していない
・売買契約の特約では、自然石の存在のみが指摘されていたものの、もともと植栽や農園としてそのまま利用する予定ではないため、廃棄物があったとしても売買目的を達することができないわけではない

また、不法行為責任についてもYには廃棄物の撤去義務や告知義務があったとは認められないと判断しました。

以上の理由から裁判所は、Xの請求については、いずれも棄却しています。

(3)解説

上記裁判例は、改正前民法の瑕疵担保責任に基づいて判断したものになりますが、瑕疵担保責任における瑕疵の有無と契約不適合責任における契約内容との適合性の判断は、実質的には変わっていないと考えられています。

そのため、契約不適合責任においても、上記の裁判例と同様、契約内容との適合性の有無は、一般的抽象的に決められるのではなく、契約内容と目的物の性質に応じて個別具体的に判断されることになります。

上記裁判例は、地中埋設物があっても契約不適合とはならないと一般的に判断したものではなく、上記事案では、契約不適合責任とはならないと判断したものですので、注意が必要です。

3、裁判例②|土壌汚染対策費用は誰の負担?

購入した土地の有害物質が環境基準を超えていた場合、土壌改良のための費用を売主に請求することはできるのでしょうか。以下では、大阪地裁令和3年1月14日判決を紹介します。

(1)事案の概要

買主Xは、中学校および高等学校の校舎を建設するためにY所有の土地および建物を37億3000万円で購入しました。売買契約書には、瑕疵担保責任と土壌改良費用の負担について以下のような特約が定められていました。

「買主は、本物件に隠れた瑕疵があり、この契約を締結した目的が達せられない場合は契約の解除を、その他の場合は損害賠償の請求を売主に対してすることができる」

「既存建物の建築エリアについては、既存建物解体後、売主の費用で買主が調査を実施し、土壌改良が必要な場合は、売主の費用で買主が改良を行う」

Xは、本件不動産の引渡し後、建物の解体を行い、土壌調査を行った結果、土地からは土壌汚染対策法上の基準値を超える鉛とヒ素が検出されました。

そこで、Xは、Yに対して、土地の土壌汚染を理由に瑕疵担保責任または本件特約条項に基づいて、土地の土壌汚染対策費用などの損害賠償を求めて訴えを提起しました。

(2)裁判所の判断

裁判所は、本件土地の鉛およびヒ素の溶出量は、土壌汚染対策法が定める土壌溶出量基準値を超えていたことから、瑕疵にあたると判断しました。

しかし、「土壌改良が必要な場合」とは、土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を講じることが義務付けられる場合を指すと判断し、本件では、汚染状態に関する基準には適合しないものの、健康被害が生ずるおそれに関する基準には該当しないとして、土壌改良のための土壌汚染対策費用などの損害賠償請求については否定しました。

(3)解説

売買契約では、引き渡された目的物が売買契約で予定されていた品質や性能を備えていない場合には、売主は担保責任を負うことになります。一般的に、有害物質の含有量が危険がないと認められる限度内であることは、売買の目的物たる土地として、通常備えるべき品質、性能ですので、それを欠く場合には、瑕疵があるものと判断されます。

この裁判例は、民法改正前の瑕疵担保責任に基づく判断ですが、契約不適合責任に改正された後も判断枠組みは変更されていませんので、土地の土壌汚染に関して、先例としての価値を有しています。

4、裁判例③|10年以上前の自殺は心理的瑕疵にあたる?

購入した建物内で過去に自殺があったとしても、自殺から10年以上経過していれば心理的瑕疵には該当しないのでしょうか。以下では、東京地裁平成29年5月25日判決を紹介します。

(1)事案の概要

買主Xは、土地および建物を売主Yから代金800万円、手付金50万円で購入しました。本件建物には、かつてAが居住していましたが、10年以上前に本件建物内で首つり自殺をしています。

Yは、本件建物内で自殺があったことを知っていたにもかかわらず、Xにそのことを告げていませんでした。Xは、本件土地および建物の購入後に、建物内で自殺があったことを知り、瑕疵担保責任に基づいて契約の解除を行い、違約金の支払いおよび手付金の返還を求めて、訴えを提起しました。

(2)裁判所の判断

裁判所は、目的物に物理的な欠陥がある場合だけでなく、嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も瑕疵担保責任の対象に含まれると判断しました。

そして、本件建物では、10年以上前に発生した自殺ではあるものの、以下の理由から時間の経過によって瑕疵が払しょくされるわけではないと判断し、Xの請求を認めました。
・自殺という極めて重大の歴史的背景に起因するものであること
・本件土地建物の立地が古くから居住する高齢者が多く、閉鎖的であること
・Xが本件自殺を知った経緯
・近隣住民も自殺の記憶を払しょくできていないこと
・本件建物が自殺後も建て替えられていないこと

(3)解説

売買の目的物に自殺や殺人など、そこで生活することについて、心理的嫌悪感を生じさせる過去の事件や事故は、心理的な欠陥として、目的物の瑕疵にあたります。買主は、このような心理的な欠陥があることを知らずに、目的物の引渡しを受け、それにより契約目的を達成することができない場合には、契約解除が可能となります。

5、まとめ

契約不適合責任(瑕疵担保責任)に関する実際の裁判例を見てもわかるように、契約不適合(瑕疵)に該当するかどうかは、個別具体的な事案に即した判断が必要になります。一般的抽象的に契約不適合の有無を判断することはできませんので、購入した不動産などに何らかの欠陥や不具合が生じているときは、まずは、弁護士に相談するようにしましょう。

ダーウィン法律事務所では、不動産トラブルの取り扱いに力を入れています。不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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