【不動産法務】所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

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I.トピックス

1.所有者不明土地の社会的課題

所有者不明土地とは、

・不動産登記簿の情報からだけでは、所有者が直ちに判明しない土地
・所有者が判明したとしても、その所在が不明であり容易に連絡がつかない土地

とされています。

不動産は資産的価値を有するものですが、一方で、農村地帯や山林地帯の不動産は管理の手間や、また、いったん事故が発生した際の損害賠償責任(民法717条【土地工作物責任】)を負うリスクなどがあり、そういった不動産を相続しても財産的に無価値なことが多く、放置されてきている現状があります。

このように放置された所有者不明土地は、より一層、管理がされないことで荒廃化が進み、公共事業や民間取引が阻害される要因にもなっています。

このような課題を解決するために、

・相続による登記を義務化(不動産登記制度の見直し)
・土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設
・土地利用に関連する民法の規律の見直し

を行うこととなり、今回の民事基本法制の見直しを行うこととなりました。

2.改正の内容

令和3年4月21日,「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立しました(同月28日公布)。両法律は,所有者不明土地の増加等の社会経済情勢の変化に鑑み,所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から,総合的に民事基本法制の見直しを行うものです。

実際の施行は、数年後先からになります。

3.①相続による登記等の義務化(不動産登記制度の見直し)について

ポイントとして、(1)相続登記の申請を義務化し、(2)登記名義人の死亡等の事実の公示を行うこととなりました。

1.相続登記の申請を義務化について

不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務づけることとなり、正当な理由のない申請漏れには過料10万円の罰則があります。もっとも、このような対象不動産は膨大にあるため実際に過料を課すことができるのか、実効性に疑問があると考えています。

これまで、登記申請は利害関係者全員での共同登記申請が原則とされてきましたが、相続人単独で登記手続きを可能にするなど、手続きの簡略化が進められることとなります。

2.登記名義人の死亡等の事実の公示

登記官が住基ネットなどの公的機関からの死亡の情報を取得して、職権で登記に表示することも可能となります。これにより、登記で登記名義人の死亡の有無の確認が可能となります。

3.住所変更未登記への対応

所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務づけられて、これについても正当の理由の無い申請漏れには過料5万円の罰則が定められています。

もっとも、このような対象不動産は膨大にあるため実際に過料を課すことができるのか、実効性に疑問があると考えています。

4.②土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設について

これまでも、相続されなかった相続不動産については、「国庫に帰属する」(民法959条)とされていましたが、制度上きちんとしたルールが定められていませんでした。そこで、前述の所有者不明土地の社会的課題を解決するために、相続で得た財産に関して、法務大臣の承認のもと、国庫に帰属できるルール作りが行われました。

もっとも、いかなる土地(そもそも、所有者不明建物は今回の対象外で、国庫に帰属させられません)も国庫に帰属させることができるわけではなく、特定の土地に限定されています。そのため、実際にどこまで実効性がある制度になるかについては、今後の運用結果が待たれるところです。

(1)要件

要件としては、下記通りです。

A 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する以下のような土地に該当しないこと。

ア 建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物等がある土地

イ 土壌汚染や埋設物がある土地

ウ 崖がある土地

エ 境界など権利関係に争いがある土地

オ 担保検討が設定されている土地

カ 通路など他人によって使用される土地

など

B 審査手数料のほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の取り管理費相当額の負担金の納付

5.③土地利用に関連する民法の規律の見直し

(1)これまで、所有者不明の不動産については不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度がありましたが、手続きを行うための費用が高額になるなど、非効率な制度として批判が高かったです。そこで、新たな財産管理制度を創設することとなりました。

(2)相続不動産は、相続人間での共有状態であることが多いですが、一方で、共有物の管理については、過半数の同意が必要であったり、時には全員の同意が必要となるなど、意思決定に多大な制約がありました。そこで、不明共有者に対して公告を行った上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度を創設することとなりました。

(3)相続不動産では、時に相続人間でのトラブルに発展することで登記がされないまま長年争われることがあります。この場合、相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行うことのできる仕組みを創設することとなりました。

6.使い勝手は今後に期待。

法令案をみると、特に所有者不明土地の国庫への帰属ができる土地が相当程度限定されてしまっており、例えば、崖地、境界が定められていない土地、樹木が生い茂っている土地などについては承認がされないと法文から読み取れます。ですが、放棄したい土地というのは得てしてそのような利用価値の無い土地であることが多く、実効性があるのか疑問です。また、10年分の土地管理費相当額の負担金を納付するなどの経済的な出費も求められています。とはいえ、「不動産の国庫に帰属させる」ルール作りがなされた点は評価できます。

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