区分所有マンションでの用法義務違反を徹底解説

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D.マンション管理
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マンション管理組合 

マンション内の一部屋を購入して居住している方は、マンションの区分所有権を有していることになりますから、自身が所有している居室の中については、基本的に何をしようと自由なはずです。
一方で、建物の区分所有者は、建物の全体を所有している訳ではありませんから、区分所有者でしかないことに伴う各種の制限を受けることになりますし、マンション管理契約等に基づく制限が存在することもあります。
そのような制限に違反する典型例として、マンションの用法義務違反の問題が存在します。
ここでは、マンションの用法義務違反の問題について解説します。

1.法律の定め

上述したように、区分所有者とはいえ、マンションの居室については所有権を有している訳ですから、基本的にはその居室の用い方は自由であるはずです。その例外として、使用方法に制限を付する法律として、建物の区分所有等に関する法律が制定されています。

建物の区分所有等に関する法律

(区分所有者の権利義務等)
第6条
1項 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2項 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3項 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

このように、「建物の保存に有害な行為」や「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」を、法律は禁止しています。共用部分について、区分所有者が自由に処分できないのは当然のことですから、上述した行為については、建物の専有部分との関係でも禁止されているのです。

2.建物の保存に有害な行為

(1)どのような行為が該当するのか

「建物の保存に有害な行為」とは、どのような行為を指すのでしょうか。例えば、耐力壁の撤去等は、保存との関係で有害であることが分かり易いように思います。他にも、居室の一部をベランダにするような行為や、その逆等についても、「建物の保存に有害な行為」に該当するものといえそうです。
居室の一部をベランダ化するというと、そのような工事がなされる事例は相当に例外的だという印象をお持ちになると思いますが、もう少し一般的にありそうな事例としては、階段をスロープ化することについて、このような行為に該当すると判断された事案も存在します(東京高等裁判所平成28年4月27日判決 D-1Law28241565)。
利便性や建物の価値の増減という観点と、建物の保存に有害かどうかという観点は別物であると考える必要があります。

(2)マンション標準管理規約との関係

このような行為は、建物自体に悪影響を及ぼすものになりますし、一度行われてしまえば、原状回復に相当の時間とお金がかかります。有害行為を行った者が回復させることができればいいのですが、資力との関係で回復させることができなかった場合、その損失は、その建物の他の区分所有者全員に及ぶことになりますから、このような行為については未然に防ぐ必要があります。
そこで、住民の間でマンション管理について規約を締結しておくことが求められます。その内容は様々なものが考えられますが、ここでは国土交通省が管理規約の標準モデルとして作成している、マンション標準管理規約を参考に考えてみたいと思います。

マンション標準管理規約

(専有部分の修繕等)
第17条
1項 区分所有者は、その専有部分について、修繕、模様替え又は建物に定着する物件の取付け若しくは取替え(以下「修繕等」という。)を行おうとするときは、あらかじめ、理事長…にその旨を申請し、書面による承認を受けなければならない。
2項 前項の場合において、区分所有者は、設計図、仕様書及び工程表を添付 した申請書を理事長に提出しなければならない。
3項 理事長は、第1項の規定による申請について、承認しようとするとき、 又は不承認としようとするときは、理事会…の決議を経なければならない。
4項 第1項の承認があったときは、区分所有者は、承認の範囲内において、 専有部分の修繕等に係る共用部分の工事を行うことができる。
5項 理事長又はその指定を受けた者は、本条の施行に必要な範囲内において、修繕等の箇所に立ち入り、必要な調査を行うことができる。この場合において、区分所有者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。

このように、修繕等を行うに際して、事前に理事長による承認を要件とすることで、「建物の保存に有害な行為」を未然に防ぐことが考えられます。

3.共同の利益に反する行為

「建物の保存に有害な行為」については、「建物の保存」という観点が分かり易いことから、イメージし易いものと言えますが、「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」は、より広範な行為を意味する概念といえ、どのような行為を指しているのかが分かり難い部分があります。

この点について、東京高等裁判所昭和53年2月27日判決(金融法務事情875号31頁)も、「共同の利益に反する行為にあたるかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態樣、程度等の諸事情を比較考量して決すべきものである。」としており、やはり具体的な事実を総合的に考慮して判断するしかありません。

典型例としては、廊下等の共用部分に私物やごみを放置するなど、共有敷地部分を私用化するようなケースや、専有部分をカラオケスタジオ等として使用して騒音を生ぜしめている場合等が考えられます。暴力団の事務所として用いる行為も、共同の利益に反する行為と言えそうです。

また、やや異なる観点から、東京地方裁判所平成19年11月14日判決(判例タイムズ1288号286頁)は、「区分所有者の共有に属する共用部分を維持管理していくために、所定の管理費や修繕積立金等を区分所有者が負担することは当然であり…一部の区分所有者がその支払をしない場合、その負担は他の区分所有者に掛かることとなり…最終的には共用部分の維持管理が困難となる事態を招く」として、管理費等の支払いを懈怠する行為を、「共同の利益に反する行為」にあたるとしています。
マンション標準管理規約との関係にでも問題となります。

マンション標準管理規約

(専有部分の用途)
第12条
区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
(敷地及び共用部分等の用法)
第13条
区分所有者は、敷地及び共用部分等をそれぞれの通常の用法に従って使用しなければならない。

このような形で、用法について制限をかけられているケースがほとんどであるように思われます。

4.違反行為への対応

上述した行為への対応策についても、まずは法律の定めを確認しましょう。

建物の区分所有等に関する法律

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条
1項 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。

(使用禁止の請求)
第58条
1項 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。

(区分所有権の競売の請求)
第59条
1項 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。

以上のとおり、行為の中止を求める権利が認められていることに加えて、その専有部分についての使用自体を禁止することを求めることも可能とされており、さらに、それでも解決できない場合には、区分所有権を区分所有者の意思とは無関係に強制的に競売にかけることも可能となっています。
一人の用法違反によって、その他の全区分所有者が不利益を被ることになりますし、その不利益が半永久的に継続することがないように、強力な権限を他の区分所有者に認めているのです。

5.まとめ

以上のとおり、区分所有者に対する制限は様々なものがあり、当該制限に違反してしまうと、最悪は競売を請求されてしまうこととなり、区分所有権を失ってしまうことになります。
しかしながら、競売等を請求するための要件は厳格ですし、何よりもそのような請求が認められるまでの間、不利益を継続的に受け続けることになってしまいますから、用法義務に違反する者がでないように、規約をしっかりと作成した上で、区分所有者全員に同規約の内容を十分に説明することなどによって、用法義務違反に関するトラブルを未然に防ぐことが求められるものといえるでしょう。

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