マンション管理費の支払いを怠った場合の法的手続きについて解説

法律相談カテゴリー
D.マンション管理
該当する業者タイプ
マンション管理組合 

1 管理費・修繕積立金とは

分譲マンションを購入した区分所有者は、通常、管理組合に対して管理費及び修繕積立金(以下、「管理費等」といいます)を支払わなければなりません。
マンション管理に不可欠なものですが、区分所有法には管理費等の支払い義務を直接定めた規定はありません。
そこで、多くのマンションでは、集会の決議や規約をもって区分所有者の管理費等の支払義務を定めており、管理組合は集会の議決や規約を根拠として、区分所有者に対して管理費等の請求を行うことができるものとされています。

以下では、標準管理規約の規定を前提にして、管理費等について概説します。
区分所有者は、敷地及び共有部分等の管理に要する経費に充てるため、管理費等を管理組合に納入しなければなりません(標準25条)。
管理費とは、共用部分の清掃費用やエレベーターの点検費用など、敷地及びマンションの共用部分の維持・管理のために恒常的・日常的に支出される費用(標準27条)で、修繕積立金とは、マンションの大規模修繕に備えて積み立てておく費用です(標準28条)。
管理組合の役員も報酬を得て務めているわけではないこと、年度によって入れ替わりもあること、通常のマンションの1か月当たりの管理費等の金額はそれほど高額ではないこと等の要因から、管理組合として管理費の滞納が発生した場合の危機意識が低く、費用をかけてまで管理費等の回収を図ることに躊躇するケースも少なくありません。

しかし、一度滞納した区分所有者は再度滞納することが多く、滞納期間が長期化するケースも散見されます。
そして、滞納期間が長期化し、滞納金額が高額化すると、マンションの維持管理に与える弊害が思いのほか大きくなることがあります。

2 管理費滞納に対する措置

⑴ 罰則措置

管理組合は、弁護士に依頼し法的手続をとる前に、区分所有者に対して事実上の罰則措置をとり、滞納管理費の支払いを督促することがあります。
しかしながら、罰則という性質上、管理組合の措置が区分所有者の権利利益を侵害することもあり、この場合には反対に管理組合が不法行為に基づいて損害賠償請求をされる場合もありますので注意が必要です。
掲示板への張り紙掲示のように、滞納者を公表するという措置が典型例です。

別荘地の町会の会長が、管理費の長期未納者の氏名、滞納期間等につき立て看板に記載して、別荘地の住民以外の者も出入りできる場所に立て看板を設置した事案について、立看板の記載内容が虚偽ではないこと、総会における会員の発議により総会の決議に基づき役員会の決議を経たうえで会則の適用を決定し、その後滞納金額等を公表することおよび管理費納入の意思があれば公表を控える旨を滞納者に通知したこと、町会が当該立看板を設置するに至った目的(管理費を支払っている他の会員との間の公平を図る)、管理費を一部でも支払えば氏名を削除する対応をとっていたこと等を指摘し、不法行為の成立を否定しました(東京地判平11.12.24)。

他方で、管理費等を滞納している区分所有者に対し給湯を停止する措置をとった事案につき、日常生活に不可欠のサービスの停止は、他の方法をとることが著しく困難であるか実際上効果がないような場合に限って是認されるものとして、厳格な要件を示したうえで、具体的な事情のもとに不法行為の成立を認めた裁判例もあります(東京地判平2.1.30)。

以上の通り、一般的に、区分所有者のうける権利侵害の度合いが大きければ大きいほど、管理組合の措置が違法とされる可能性が高くなります。滞納者名の公表についても、通知もなくいきなり貼り紙を掲示するなどすれば、違法と判断される可能性は高まります。
管理組合が独自の罰則措置をとる前に、まずは弁護士に相談したほうが無難でしょう。

⑵ 専有部分使用禁止請求

管理組合としての、管理費を滞納している区分所有者に対する対応としては、通常は滞納管理費の支払い請求訴訟を提起し、債務名義を取得後、強制執行を行うことが考えられます。
また、管理費滞納の事案であれば、このような手続を経なくとも、区分所有法7条の先取特権に基づいて、区分所有建物について競売申立を行うことも考えられます。

しかし、実務上、多くの区分所有者がマンション購入時に住宅ローンを利用し、区分所有建物に抵当権が設定されているケースが多く、滞納管理費の回収が困難な場合も少なくありません。
このような場合には、管理組合としては、区分所有者に対し、専有部分の使用禁止請求をすることが考えられます(区分所有法58条)。
著しい管理費の滞納は、区分所有法6条1項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」にあたるとされています。
この請求は直接的には専有部分の使用禁止を求めるものではありますが、支払いに対する心理的圧力になりますし、区分所有者は使用禁止が命じられた場合も第三者への譲渡や賃貸は可能であるため、それらによる収益から滞納管理費の回収を期待でき、さらには譲渡を受けた第三者への債務承継(区分所有法8条)により滞納管理費の回収を期待することもできます。

ただし、これらはあくまでも間接的な効果であって、管理費滞納のケースでは、区分所有者の専有部分の使用を禁止すれば、管理費を支払うようになるという論理的な必然性(直接の関連性)はありません。
管理費滞納事案において、専有部分の使用禁止を認めなかった裁判例もあるところであり(大阪高判平14.5.16)、実務上はこのような裁判例もあることを念頭に置いて動く必要があります。

⑶ 競売請求

区分所有法59条基づく競売請求が認められるためには、①区分所有者の共同生活上の障害が著しいことと、②他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることがこんなんであることが必要です。
まず、①については、滞納額が重要であることはもちろんですが、他の区分所有者の共同生活に対してどのような実害が発生しているのかが重要です。
また、②については、滞納管理費を回収するための強制執行が不奏功に終わったことや、無剰余取り消しとなる可能性が高いことなどが必要です。
競売申立は、所有権のはく奪という強い効果を伴うものであるため、厳格な要件の下に認められています。

3 競落人に対する管理費の請求

管理費が滞納されている物件を競売等で買い受けた者に対しても、管理組合は滞納管理費の請求をすることができます(区分所有法7条、8条)。
管理費滞納の事実を知らずに購入した買主も支払い義務を負うこととなります。

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