他人物売買とは、売主が所有していない他人の物を売買することをいいます。
民法では、他人物売買も有効な契約として扱われていますので、売主が所有していない不動産を売却することもかのうです。
しかし、宅建業法では、他人物売買について民法とは異なる取り扱いをしていますので、宅地建物取引業者が自ら売主となって、売買契約を締結する際には、当該不動産の所有権の所在について注意が必要となります。
今回は、仲介事業者に向けて他人物売買に関する宅建業法による規制について、不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
目次

民法では、他人物売買について、以下のように規定しています。

すなわち、民法では売主が所有していない他人の物を売買することは禁止されておらず、他人物売買も有効な契約として扱われます。
ただし、売主が他人の権利を取得して買主に移転する義務を果たせなかった場合には、売主は契約不適合責任を負い、契約の解除や損害賠償請求をされる可能性があります。
民法では、有効とされている他人物売買ですが、宅建業法では、宅地建物取引業者が自ら売主になる宅地建物の売買契約に関しては、自己の所有に属しない宅地または建物についての転売に係る売買契約を締結することは原則として禁止されています。
このように民法と宅建業法で他人物売買に関する扱いが異なるのは、過去に宅地建物取引業者による他人物売買でトラブルが頻発したからです。
昭和50年代には、売買権限がない他人所有の宅地建物を宅地建物取引業者が売主と称して売却し、その後引き渡すことができず、手付金の返金もされないため、購入者に多額の損害が生じるといったトラブルが起きて、社会問題になりました。
これを受けて、昭和55年の宅建業法改正により、新たに他人物売買の規制が設けられました。
なお、「自己の所有に属しない」とは、売主以外の他人に所有権が帰属している場合と未完成物件のように所有権の帰属が明確ではなく、売主に所有権が帰属しているか不明確である場合を含みます。

宅地建物取引業者が当該宅地または建物を取得する契約を締結しているなら、所有権を取得して買主に所有権の移転ができなくなる蓋然性は低く、買主に不測の損害が生じる可能性も低いため、例外的に他人物売買を行うことができます。
ただし、宅地見込みの農地の売買において農地法5条の許可がなされていないうちは、買主はまだ当該農地の所有権を取得しておらず、また、取得できるか否かは不確実ですので、許可がされる前に宅地建物取引業者が自ら売主として売買契約を締結することは禁止されています。
宅地または建物を取得できることが明らかな場合として、省令では、以下の4つケースが定められています。
①当該宅地が都市計画法の規定により当該宅地建物取引業者が開発許可を受けた開発行為又は開発行為に関する工事に係るものであつて、かつ、公共施設の用に供されている土地で国又は地方公共団体が所有するものである場合において、当該開発許可に係る開発行為又は開発行為に関する工事の進捗の状況からみて、当該宅地について同法40条1項の規定の適用を受けることが確実と認められるとき
②当該宅地が新住宅市街地開発法2条1項に規定する新住宅市街地開発事業で当該宅地建物取引業者が施行するものに係るものであつて、かつ、公共施設の用に供されている土地で国又は地方公共団体が所有するものである場合において、当該新住宅市街地開発事業の進捗の状況からみて、当該宅地について同法29条1項の規定の適用を受けることが確実と認められるとき
③当該宅地が土地区画整理法上の保留地予定地である場合において、当該宅地建物取引業者が、当該土地区画整理事業又は当該住宅街区整備事業に係る換地処分の公告の日の翌日に当該施行者が取得する当該保留地予定地である宅地を当該施行者から取得する契約を締結しているとき
④当該宅地又は建物について、当該宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約であって当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者に移転することを約するものを締結しているとき
当該宅地または建物の売買が宅建業法41条1項に規定する未完成物件の売買であり、手付金等の保全措置が講じられている場合には、買主に不測の損害が生じるおそれが低いため、例外的に他人物売買が認められています。
宅建業法の他人物売買の規制は、買主である一般消費者が不測の損害を被る事態を防止する目的の規定ですので、業者間取引であればそのような心配はありません。
そのため、宅地建物取引業者間で取引をする場合であれば、例外的に他人物売買を行うことが可能です。

宅建業法上の他人物売買の規制は、宅地建物取引業者と取引を行う宅地建物取引業者以外の人の利益を保護する観点から、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約の締結に制限を加えています。
しかし、宅建業法では他人物売買の規制に違反した場合の契約の効力を定めた規定が設けられていませんので、宅建業法に違反する他人物売買契約であったとしても、契約の効力が無効になることはありません。
売買契約は有効として取り扱われ、売主である宅地建物取引業者が他人の権利を取得して買主に移転する義務を果たせなかった場合には、契約不適合責任を負うことになります。
宅地建物取引業者が宅建業法上の他人物売買の規制に違反した場合、監督官庁から、以下のような行政処分を受ける可能性があります。


買主業者Xは、以前から取得を希望していた土地を購入するため、登記上の所有者から土地を購入(一次売買契約)したと主張するBとの間で仲介業者Yを介して売買契約の交渉を行いました。
契約締結当日、契約場所がBの事務所から仲介業者Yの事務所に変更され、Bの事務所には事前説明とは異なる会社名が掲げられていたなど不審な点がいくつかありましたが、最終的に売買契約が締結され、買主業者Xは、手付金500万円を支払いました。
しかし、その後Bが登記上の所有者から土地を取得したという契約書が偽造であることが判明し、Xは土地を取得することができず、手付金500万円も詐取されてしまいました。
そこで、XはYに対し、一次売買契約についての調査確認義務を怠ったとして、手付金相当額500万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
裁判所は、XY間に媒介契約が成立していたことを認定した上で、Yの調査義務違反を認めました。
・Yは、本件売買契約が他人物売買契約であり、Bが所有権を取得できなければXに損害を与えることを容易に知り得た
・本件売買契約の締結に至る経緯において、いくつか不審な点が認められたことからすれば、YにはAに土地を売却する意思があるか否かについて連絡を試みるなどして確認すべきであったがそれを怠った注意義務違反がある
ただし、本件では、Xが宅建業者であり、所有権を取得できない場合のリスクを理解しており、Yに対してさらに調査を行うよう指示すべきであったのにこれを怠ったといえることから、Xにも2割の過失があるとして、過失相殺を行っています。
他人物売買は、民法では有効な契約として扱われていますが、宅建業法では、買主に不測の損害を与えることを防止する目的から原則として禁止されています。
しかし、例外的に他人物売買が認められるケースもありますので、どのような場合が対象になるのかしっかりと押さえておくようにしましょう。
また、他人物売買の当事者だけではなく、仲介業者も権利関係の調査確認を怠ると、買主から損害賠償請求をされるリスクがありますので、慎重に対応することが大切です。
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