不動産仲介業者は、所有者から当該物件を購入して、それを購入希望者に売却するという形式をとることがあります。このような「買取仲介」は、購入価格と売却価格の差額が適正である限り、直ちに違法であるとまではいえません。
しかし、不動産仲介業者は、宅建業法により厳格な規制が適用され、誠実義務を負っていますので、取引態様によっては買取仲介が違法と判断される可能性もあります。
今回は、仲介業者の誠実義務と転売差益の不正取得の問題について、不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
目次
不動産仲介契約は、準委任契約に該当しますので、受託者は、委託者に対し、仲介委託の本旨に従い、善良な管理者としての注意をもって仲介事務を処理する義務を負います。このような義務を「善管注意義務」といいます(民法656条、644条)。
また、仲介業者は、委託者の信頼を裏切らないよう、誠実かつ適正に仲介事務を処理しなければならず、委託者から受託した地位や権限を濫用して、自己または第三者の利益を図ったり、仲介業者としての職責に背いて委託者に損害を与えるような行為をしてはなりません。
宅建業者は、取引の関係者に対して、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければなりません(宅地建物取引業法31条1項)。宅建業法では、このような業務処理における原則が定められていますので、宅建業法の適用を受ける仲介業者は、この原則に従って仲介事務を処理していかなければなりません。
このような原則と具体化した宅建業法における業務規制には、以下のようなものがあります。
仲介業者は、委託者からの請求がなかったとしても、目的物である土地や建物の売買の申込みがあったときは、遅滞なくその旨を委託者に報告しなければなりません(宅地建物取引業法34条の2第8項)。
仲介業者は、委託者に対して、売買契約の締結の判断や意思決定に影響を及ぼすような重要な事項について説明する義務を負っています(宅地建物取引業法35条1項)。
また、故意に重要な事実を告げず、または不実の事実を告げる行為が禁止されています(宅地建物取引業法47条1号)
宅建業者は、顧客から取引物件の売却、購入などについて依頼されたときは、遅滞なくその顧客に対して取引態様の別を明示しなければなりません(宅地建物取引業法34条)。
宅建業者が宅地建物の売買などの代理または媒介(仲介)により受けることができる報酬額は、国土交通大臣の定める報酬告示によって定められており、これを超えて報酬を受領する行為は禁止されています(宅地建物取引業法46条1項、2項)。
不動産仲介業者は、媒介取引以外にも、仲介業者自らが不動産を購入することもあります。
仲介業者が不動産を購入するのは、建物購入後にリフォームして転売したり、土地を一括購入後に分割して販売したりする目的によるものです。これは、いわゆる「買取仲介」などと呼ばれ、かつてバブル時には、購入価額と売却価額の利ザヤを抜くこともあったようです。
仲介業者が依頼者から売却依頼を受けた不動産を自ら購入して転売することは、依頼者にとっては、早期の売却にするなどのメリットがあります。特に中古住宅だと、売主にとってはリフォームなどの手間がなく確実に売却できるメリットがあるため、必ずしも違法とはいえません。
しかし、違法とはいえないまでも、仲介業者の購入価格と転売価格の差額があまりにも開きがある場合は、その妥当性・違法性が問題となることがあります。
宅地建物取引業法31条1項や34条の規定は、仲介業者による転売差益の不正取得(いわゆる「介入行為」)を禁止しています。
介入行為の典型例としては、以下のようなものがあります。
・仲介業者が不動産所有者から売却仲介を受託し、所有者の売却希望価格よりも高額で購入希望価格を提示した買受希望者を見つけたにもかかわらず、そのことを所有者に報告せず、仲介業者が買い取り、それを購入希望者に転売する
通常の売買仲介では、仲介業者に支払われる報酬額は、売買価格の3%に6万円を加算した額が上限になりますが、介入行為があると所有者の売却価格と買受希望者の購入価格の差額を獲得することができます。
宅地建物取引業法では、宅建業者に報告義務が課されていますので、上記のような介入行為は、報告義務に反するものとして宅建業法違反となります。
売主から売買の仲介を受けた仲介業者は、委託者の利益を最大限実現すべき義務を負います。また、委託者の希望する売却価格よりも高額な価格で買い受ける買主がいることを知ったときは、速やかにその旨を売主に報告し、有利な取引条件による売買契約成立に向けて尽力すべき義務を負います。
仲介業者は、業務を行うに際して当事者双方の取引動機や事情を知り得る地位にあることを利用して、当事者を犠牲にして自己や第三者の利益を図るため転売差益を取得することは、取引の公正を著しく欠くものとして誠実義務違反となります。
Xは、Aに対し、農地の買付斡旋を依頼し、報酬として売買価格の3%を支払う旨約定しました。Xが地主から直接の買受を希望したにもかかわらず、Aは、Bが真実の地主であるかのように装わせ、Bを地主の名前で記名押印させるなどして売買契約書を偽造し、所有者の売買価格を上乗せして売買契約を成立させました。そして、Xに売買代金を支払わせ、Aが上乗せ差額分の大半を取得することになりました。
Aの相続人YがXに対して、仮執行宣言付判決に基づいて給付した金銭の返還と損害賠償の支払いを求めたのに対し、XはAの債務不履行を理由に上記の差額相当の損害賠償請求権との相殺を主張しました。
裁判では、Aは売主の売値で仲介すべき義務を負うのかが争点になりました。
裁判所は、Aは受任者として、委任者であるYに対し、売主自身の定めた売値そのままで売買を斡旋、仲介すべき義務を負っていたとし、Aが受任者として誠実に斡旋仲介義務を履行しなかったため、Yに損害が生じたとして、Aには債務不履行に基づく損害賠償義務があると認めました。
仲介業者Xは、本件土地の所有者Aから売買仲介の委託を受けました。Xは、同業者Bに形式的に転売して転売利益と顧客からの仲介報酬を取得しようと企て、Yには売主がBであると説明し本件土地を紹介して、AにはBが買主であると説明し、AB間での売買契約(①)とBY間での売買契約(②)を締結させました。
そして、Xは、Aから仲介報酬57万7960円、Bからは10万円の報酬を受領しました。さらに、Xは、Yに対し、②の売買の仲介報酬として93万円の請求を行いました。
裁判所は、BがYから取得した転売利益176万8000円は、Yの本件土地の買入れの依頼を契機としてXが仲介人にたる立場を利用して同業者に得させた利益であるから、Yの立場からみれば、このような転売利益はXが仲介によって得た利益と同視するのが相当であるとし、XのYに対する報酬請求は、信義則違反、権利濫用にあたると判断しました。
売主Yは、所有するマンションの価格査定を仲介業者Xに依頼したところ、1500万円と査定され、Xの担当者から「今売れば高く売れる」と言われたため、Xと専任媒介契約を手喜悦しました。
Yは、Xの担当者からの「同じマンション内の物件が最低入札価格980万円で競売に出されているので、1000万円以上で売るのは難しい。Xが1200万円で買ってもよい」との申し入れを受け、Xに1200万円で売り渡し、手付金を受け取りました。
その後、Yは、同じマンション内の同じ間取りの住戸が1650万円で売れたことを知り、Xの詐欺を理由に売買契約を取り消し、引き渡しを拒んだため、XはYとの売買契約を債務不履行解除し違約金を請求しました。
裁判では、Yは、Xに対する手付金返還債務とYのXに対する損害賠償請求権とを相殺する旨主張しました。
裁判所は、Xには受任者として依頼者の利益のために善良なる管理者の注意をもって委任事務所を処理する義務があり、その業務について信義を旨として誠実に遂行する義務があるとしたうえで、Xの不当な介入行為によりYは詐欺被害に遭ったことから、Yの詐欺による売買契約の取り消しを認め、Yの相殺を認容しました。
不動産会社では、不動産という高額な商品を取り扱ってしますので、トラブルが生じると多額の損害が発生するおそれがあります。そのため、トラブルへの対応はもちろんのこと、トラブルを未然に防ぐという予防法務が重要になります。
顧問弁護士に依頼をすれば、いつでも気軽に相談ができ、日常的に専門家による法的なサポートを受けることができますので、法的トラブルを未然に防ぐことが可能です。
不動産問題に詳しい弁護士に顧問弁護士を依頼すれば、不動産会社が直面するトラブルについて、専門的な知識や経験に基づくアドバイスをしてもらうことができます。
不動産会社の経営者や社員は、不動産に関する知識や経験を有していますが、法的トラブルが生じたときに対処法については、十分な知識や経験を有していないことが多いです。このようなトラブルに対応するには、専門家である弁護士のサポートが不可欠になりますので、顧問弁護士の利用をおすすめします。
不動産に関連するトラブルが発生した場合、迅速に対応することで、トラブルが深刻化する前に解決することができます。
スポット対応の弁護士だと、相談から依頼までに時間がかかってしまいますが、顧問弁護士であれば有事には迅速に対応してもらうことができます。不動産会社の実情をよく把握している顧問弁護士なら事案に即した適切な解決も期待できるでしょう。
仲介業者は、誠実義務を負っていますので、顧客の利益を犠牲にして転売差益の不正取得を行うと、損害賠償請求などの法的トラブルに巻き込まれる可能性があります。このようなリスクを最小限に抑えるためにも、顧問弁護士に依頼して、日常的に発生する法的な悩みや不安を相談することが大切です。
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