借地借家法では、賃料が不相当になった場合に、賃貸人および賃借人に対して、賃料の増額または減額を請求する権利を定めています。これを「賃料増減額請求権」といいます。
借地・借家契約は、長期の契約期間を前提としていますので、現在の賃料が不相当と感じるときは、賃料増減額請求権を行使して、相当な賃料への変更を求めていくとよいでしょう。当事者同士の話し合いで解決でない場合は、裁判により決着をつけることになりますので、過去の裁判例でどのような判断がなされているのかを理解しておくことが大切です。
今回は、賃料増額・減額請求に関する裁判例を不動産問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
目次
借地借家法では、以下のような事情により賃料が不相当になった場合に、賃貸人および賃借人に対して、賃料の増額または減額を請求する権利を定めています。
・土地または建物に対する租税その他の負担の増減
・土地または建物の価格の上昇または低下その他の経済事情の変動
・近傍同種の建物賃料と比較して賃料が不相当になった
このような権利を「賃料増減額請求権」といいます。
上記のような事情により賃料が不相当になった場合、賃貸人または賃借人は、賃料増減額請求権を行使することにより、相当な賃料への変更を求めることができます。賃料増減額請求権は、形成権ですので意思表示が相手に到達した時点で相当な賃料に変更されますが、相手が変更に応じてくれない場合には、裁判所に訴訟を提起する必要があります。
訴訟になった場合、裁判所は、どのような観点で賃料の増額または減額を判断しているのでしょうか。以下で、詳しくみていきましょう。
裁判所は、以下のような理由から、賃料月額10万円から月額13万9000円(39%増)に増額をみとめました。
① 本件賃貸借において定められた月額10万円の賃料は、近隣の賃料水準に比べて低廉なものといえるが、Yの経営するイタリア料理店に客として訪れていたAが経済的余裕のないYに配慮して設定されたものである。しかし、このような事情があるからといって、賃料の増額が否定されるわけではない。
②不動産鑑定士による鑑定で、以下のような実質賃料の試算結果がでました。
・差額配分法:月額18万1000円
・利回り法:月額10万6000円
・スライド法:月額10万5000円
上記のとおり従前賃料を基礎に経済情勢の変動を反映させたスライド法による試算賃料が利回り法による試算賃料とほぼ同一の結論となっていることを踏まえると、両手法による試算の結果も重視するに値するとして、差額配分法とスライド法の各試算賃料のウエイトをそれぞれ1/2ずつとし、実質賃料を月額14万3000円と査定した上で、同額から一時金の運用益および償却額4250円を控除して、適正な継続賃料を月額13万9000円と評価しました。
裁判所は、以下のような理由から賃料月額58万3800円から月額77万8400円(約33%増)に増額を認めました。
①賃貸借契約締結時から賃料改定時までの間に、土地・建物に対する租税その他の負担の増加、土地・建物の価格の上昇といった経済的事情の変動はなく、本件ビルの他のテナントの賃料や周辺の賃料相場が特に上昇したという事情も認められない。
しかし、本件建物の現行賃料額は、本件ビルの他のテナントの賃料と比較して相当低額であり、このような低額になったのは、Yが本件ビルの近辺のビルの店舗から本件建物に移転することから、本件建物での営業が軌道に乗るまでに費用や時間等を要するという諸事情をXが配慮したためであり、このような現行賃料額決定の経緯等を考慮すると、本件増額請求は、借地借家法32条1項の要件を充足すると認めるのが相当である。
②不動産鑑定士による鑑定で、以下のような実質賃料の試算結果がでました。
・差額配分法:月額97万3479円
・利回り法:月額58万3047円
・スライド法:月額54万6437円
差額配分法、スライド法、利回り法は、継続賃料を算定するに当たってそれぞれ長所と短所を有するところ、本件増額請求による本件建物の相当賃料額をめぐる上記の諸事情を総合すると、各方式による試算額をほぼ均等に考慮するのが相当であるとして、適正な継続賃料を月額77万8400円と評価しました。
裁判所は、以下のような理由から賃料月額3321万4100円から月額2890万8000円(約13%減)に減額を認めました。
①不動産鑑定士による鑑定で、以下のような賃料の試算結果がでました。
・差額配分法:月額2814万円
・利回り法:月額2739万円
・スライド法:月額2900万円
②差額配分法における積算賃料については、対象不動産周辺の用途を共同住宅とする収益用不動産の取引事例についての取引利回りを算出し、総合期待利回りについて合理性があることを検証しているのであるから、差額配分法における賃料については比重を3とするのが相当である。
また、利回り法における継続利回り賃料については、現行賃料を定めたのがバブル崩壊後の地価下落期に当たる平成4年6月であること、当時の純賃料利回りが必ずしも適正な利回りであるということはできないことに照らすと、その比重を2とするのが相当である。
これに対し、スライド法における賃料については、上記のような問題は認められないので、その比重を5とするのが相当である。
③以上によれば、実質賃料を月額2842万円と認め、ここから敷金運用益(月額44万円)を控除して、適正賃料額を2798万円とするのが相当である。これに、追加賃借部分の賃料(月額92万8000円)を合計すると、本件賃貸借変更契約における適正賃料額は2890万8000円となる。
裁判所は、以下のような理由から賃料月額110万円から月額73万円(約33%減)に減額を認めました。
①本件賃貸借契約の平成7年1月28日時点における正常賃料は、
・積算法による賃料月額坪当たり3万5300円
・事例比較法による賃料月額坪当たり金3万3500円
のほぼ仲値にあたる坪当たり3万4500円、月額総額75万9000円であり、これから保証金の運用益(年5%)および更新料償却額を控除した正常実質支払賃料は、月額63万2000円(坪当たり2万8736円)となること、事例比較法による本件店舗と同種同類型の継続賃料は、月額57万4200円ないし66万4400円であること、本件店舗が周辺の貸ビルの賃料は、平成3年をピークに下落し、平成6年にはピーク時に比較して約60%の水準になっている。
・賃料月額110万円は、近隣賃料に照らし不相当となったというべきであり、本件店舗の平成7年1月28日以降の賃料は当初の1年間の約定賃料月額65万円に未払保証金の残額2000万円の運用益(年5%)を加えた月額73万円と算定するのが相当である。
賃料増額・減額請求への対応は、法的知識が必要になりますので、知識や経験に乏しい一般の方では適切に対応することができません。対応を誤ると適正な賃料への変更ができず、不利益を被るおそれがありますので、専門家である弁護士に依頼した方がよいでしょう。
弁護士であれば、適正な賃料相場を踏まえて相手と交渉することができますので、有利な条件で合意できる可能性が高くなります。
相手との交渉で解決できないときは、調停や裁判といった法的手段により解決を図る必要があります。
弁護士に依頼すれば調停や裁判の手続きをすべて任せることができますので、ご自身の負担を大幅に軽減することができます。複雑な法的手続きをご自身で対応するのは困難ですので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
賃料増額・減額請求に関するトラブルは、法的知識や経験がなければ対応が困難です。現行賃料に不満を感じる方は、不動産問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
ダーウィン法律事務所では、賃料増額・減額請求のトラブルをはじめとした不動産問題に関する豊富な解決実績がありますので、賃料増額・減額請求のトラブルでお悩みの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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