一般的に、不動産の賃料は、賃貸人と賃借人との間の契約で定められた金額を支払っていくことになります。しかし、その後の経済情勢の変化などにより当初定めた賃料の金額が実態にそぐわない状況になったときはどうすればよいのでしょうか。
このような場合には、賃貸人は、賃借人に対して、賃料の増額を請求することができます。ただし、契約時に賃料に関する特約が設けられている場合、賃料増額請求が制限されることもありますので注意が必要です。
今回は、賃料増額請求における特約の有効性と賃料増額の手続きについて、わかりやすく解説します。
目次
賃料不増額特約とは、賃貸借契約の途中に賃料の増額をしないことを内容とする当事者間の特約です。賃貸借契約では、一定期間賃料の増額をしないという賃料不増額特約が設けられることがあります。
賃料不増額特約の効力に関しては、借地借家法に規定があり、そのような合意も基本的には有効とされています(借地借家法11条1項、32条1項)。そのため、賃貸借契約に賃料不増額特約が設けられている場合には、原則として、特約で定められた期間内は賃料の増額を請求することはできません。
ただし、賃料不増額特約の期間が長期間にわたり、その間に経済的事情の激変が生じた場合には、事情変更の原則が適用され、賃料の増額請求が認められることがあります(横浜地裁昭和39年11月28日判決)。
賃料不減額特約とは、賃貸借契約の途中に賃料の減額をしないことを内容とする当事者間の特約です。賃貸借契約では、一定期間賃料の減額をしないという賃料不減額特約が設けられることがあります。
賃料不増額特約とは異なり、賃料不減額特約については借地借家法において明文の規定がありません。しかし、借地借家法11条1項および32条1項では、「契約の条件にかかわらず」将来に向かって賃料の増減額を請求することができると定められています。すなわち、当事者が賃料を減額しない旨の特約を定めたとしても、それに拘束されることなく、賃料の減額請求ができるということです。
ただし、賃料不減額特約がある場合、賃料減額請求における相当賃料額を判断する際の重要な事情として考慮される可能性があります。
賃料自動改定特約とは、将来の賃料の増減額について、一定期間ごとに一定割合で増減額する旨をあらかじめ合意した特約です。将来、賃料の増額または減額に関して当事者間で協議しなければならないのは、非常に煩雑であることから、あらかじめ将来の賃料の改定ルールを定めたものがこの特約になります。
賃料の自動改定特約の定め方には、さまざまな方法がありますが、代表的なものを挙げると以下のようなものがあります。
・鑑定業者の鑑定結果にしたがって賃料を改定する特約
・土地の路線価に変動が生じたときは、その増減率にしたがって賃料を改定する特約
・固定資産税や都市計画税に変動が生じたときは、その増減率にしたがって賃料を改定する特約
・一定期間経過後に一定割合で賃料を改定する特約
賃貸借契約の条件は、借地借家法の強行規定や信義則に反しない限りは、当事者が自由に定めることができます(契約自由の原則)。
賃料改定の協議は、当事者にとっては非常に煩わしいものといえますので、将来の賃料額を一定の基準であらかじめ定めるという自動改定特約を設けること自体は可能です。ただし、賃料の自動改定特約の内容が不明確なものであったり、経済事情の変動から著しくかけ離れた不合理な内容である場合には、特約が無効と判断される可能性もありますので注意が必要です。
なお、賃料の自動改定特約が有効であったとしても、経済的事情の激変が生じた場合には、事情変更の原則により、賃料の自動改定特約の適用が認められないこともあります。
賃料の自動改定特約の有効性を判断した判例として、最高裁平成15年6月12日判決を紹介します。
この事案は、バブル期に締結された土地賃貸借契約に「地代自動増額改定特約」があり、これに基づく地代の自動増額の有効性と賃借人による地代の減額請求の可否が争点になった事案です。
なお、本件賃貸借契約が締結された昭和62年7月当時は、いわゆるバブル経済の崩壊前であり、本件土地を含む東京都23区内の土地価格は、急激な上昇を続けていました。将来も地価の上昇が予想される状況であったことから、本件増額特約により、その後の地代の上昇を一定割合に固定し、地代をめぐる紛争を防止し、企業としての経済活動に資するものにするという目的がありました。
本件裁判では、地代自動増額改定特約の有効性と賃借人による地代等減額請求の可否が争点となりました。裁判所は、地代自動増額改定特約は、有効であると判断したものの賃借人による減額請求により減額請求があったときから地代が減額されると判断しました。
地代等の額の決定は、本来当事者の自由な合意にゆだねられているのであるから、当事者は、将来の地代等の額をあらかじめ定める内容の特約を締結することもできるというべきである。そして、地代等改定をめぐる協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止するため、一定の基準に基づいて将来の地代等を自動的に決定していくという地代等自動改定特約についても、基本的には同様に考えることができる。
地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法第11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には、その効力を認めることができる。
当初は効力が認められるべきであった地代等自動改定特約であっても、その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法第11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には、同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず、これを適用して地代等改定の効果が生ずるとすることはできない。
また、このような事情の下においては、当事者は、同項に基づく地代等増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない。
賃料不増額特約がある場合には、基本的には特約期間内は、賃料の増額を求めることができません。そのため、賃料の増額を求めるためには、特約期間が経過してから請求するのが原則となります。
ただし、事情変更の原則が適用される場合には、賃料不増額特約があったとしても、例外的に賃料の増額を求めることができます。この場合、事情変更の原則が適用されることを主張立証していく必要がありますが、それ以外の手続きは、通常の賃料増額請求の手続きと同様です。
賃料増額請求は、以下のような流れで進めていきます。
賃料の増額を希望する場合、まずは賃貸人と賃借人との話し合いを行います。賃借人からは賃料不増額特約に基づいて賃料の増額を拒否されると思いますので、賃貸人としては、事情変更の原則が適用されるケースであることを丁寧に説明し、賃借人の理解を得るよう努めてください。
当事者間の話し合いでは解決できない場合は、裁判所に賃料増額調停の申立てを行う必要があります。賃料に関する争いは、調停前置主義が採用されていますので、訴訟を提起する前に必ず調停を行わなければなりません。
調停は、基本的には話し合いの手続きになりますので、お互い合意が得られなければ調停は不成立となってしまいます。
賃料増額調停が不成立になったときは、賃料増額請求訴訟を提起します。訴訟では、不動産鑑定士による鑑定結果などを踏まえて、賃料の増額の可否および金額が判断されます。
賃料に関する特約には、主に、賃料不増額・不減額特約、賃料自動改定特約があります。賃料不減額特約を除き、基本的には契約自由の原則に基づいて当事者が自由に定めることができますが、特約の内容によっては、無効になってしまうリスクもあります。
弁護士に相談をすれば、特約の有効性について判断してもらえますので、弁護士にアドバイスにしたがって特約を設ければ無効になるリスクを回避することができるでしょう。
不動産の賃貸借契約は、長期間の契約を前提としていますので、その後の経済情勢の変化によっては現状の賃料額が不相当な金額になることもあります。
そのような場合には、賃料増額請求をすることができますが、交渉・調停・訴訟などの手続きをすべて賃貸人の方が個人で対応するのは非常に困難といえます。弁護士に依頼をすれば、これらの手続きをすべて任せることができますので、負担なく賃料の増額を行うことが可能です。
賃料に関してはさまざまな特約がありますが、特約の内容によっては特約が無効になってしまう可能性もあります。また、賃料不増額特約があったとしても、例外的に賃料の増額を請求できるケースもありますので、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。
ダーウィン法律事務所では、賃料増額請求のトラブルをはじめとした不動産問題に関する豊富な解決実績がありますので、賃料増額請求のトラブルでお悩みの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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