不動産業者は、自社が所有する物件の売却や売買の仲介など、不動産の売却を業務の一つとしています。不動産売買は、高額な取引になりますので、契約関係・支払い関係・物件関係などのトラブルが生じることがあります。
これらのトラブルが生じると解決前に多大な労力と費用がかかりますので、よくあるトラブルの事例とその原因を把握し、回避するための対策を講じることが重要になります。
今回は、不動産業者向けに、不動産買場でよくあるトラブルとその対処法について、わかりやすく解説します。
目次
不動産業者は、不動産に関してさまざまな業務を行っていますが、不動産売買の仲介も不動産業者の主要な業務の一つとなります。土地や建物といった不動産の売買をする場合、売主と買主が直接取引するケースは少なく、一般的には、不動産業者が売主と買主の間に入って契約の成立をサポートします。
不動産売買の特徴として、取引額が高額である、対象物に代替性がない、さまざまな法規制があるため、不動産売買ではしばしばトラブルが生じることがあります。具体的なトラブルの類型としては、以下のようなものが挙げられます。
・契約に関するトラブル
・仲介手数料に関するトラブル
・物件に関するトラブル
不動産売買でトラブルが生じると、売主・買主だけではなく、不動産業者にも損害が生じる可能性がありますので、トラブルを回避するための対策を講じていくことが重要になります。そのためには、不動産売買で生じるトラブルの内容をしっかりと理解しておかなければなりません。そこで、次章からは、不動産売買で生じるトラブルの類型ごとの詳しい内容を紹介していきます。
不動産売買の契約交渉過程においては、当事者が買付証明書・売渡承諾書を提出した後に取引授権についての協議・調整を重ねていたところ、当事者の一方が相手方との契約交渉を打ち切ったり、契約締結を拒否することがあります。これを「契約交渉の不当破棄」といいます。
契約当事者は、いつ・誰と・どのような取引条件で売買契約を締結するかは、基本的には自由に決めることができます。しかし、契約交渉をスタートし売買価格などの取引条件について協議・調整を重ねるうちに、当事者の一方が相手方に対し、契約が成立するであろう信頼を与えるに至った場合は、相手方の信頼を裏切らないよう誠実に契約の成立に努める信義則上の注意義務を負います。
契約交渉の不当破棄により、相手方に損害を与えた場合には、賠償責任を負わなければなりません。
手付とは、売買契約締結の際に、当事者の一方から相手方に対して交付する金銭をいいます。このような手付の授受があった場合、買主は、売主に対して交付した手付を放棄することで契約の解除をすることができ、売主は、買主から受領した手付の倍額を提供することにより契約を解除することができます。
ただし、相手方が契約の履行に着手すると手付解除をすることができなくなるため、実務では、履行の着手があったかどうかをめぐってトラブルになることがあります。
ローン特約とは、不動産を購入する際に予定していたローンが不成立となった場合に、売買契約を解除して白紙に戻すことができる特約です。
不動産の購入には多額の資金が必要になりますので、一般的には金融機関の住宅ローンを利用するケースが多いです。しかし、住宅ローンの利用にあたっては審査が必要にありますので、場合によっては住宅ローンを利用できないケースもあります。すでに売買契約が成立している場合、契約を解除すると違約金を請求されるおそれがありますが、ローン特約を設けておけば、違約金を請求されることなく無条件で契約を解除することが可能です。
ただし、ローン特約があっても、契約書に記載された表現から一義的に特約内容が定まらない場合には、契約解除の可否をめぐってトラブルになることがあります。不動産業者としては、このようなトラブルにならないよう疑義が生じない形の約定を設けるとともに、重要事項説明でしっかりと内容を説明することが大切です。
仲介手数料とは、不動産業者が仲介役として不動産売買に関与し、契約成立に至ったときに支払われる報酬です。不動産取引は、売主と買主の個人間で行われるケースは少なく、ほとんどのケースでは不動産業者が関与して行われます。売主・買主としても仲介業者を間に入れることでスムーズに取引を進めることができますし、不動産業者としても仲介手数料の支払いを受けられるといったメリットがあります。
このような仲介手数料は、不動産仲介業を営む不動産業者にとっては重要な収入源となりますが、以下のようなケースでは、仲介手数料の支払いの要否をめぐってトラブルになることがあります。
・物件の紹介をしたものの契約成立には至らなかったケース
・契約が手付解除されたケース
・契約が債務不履行解除されたケース
・契約がローン特約解除されたケース
仲介手数料の金額は、不動産の取引価格に対して一定の割合を乗じることで計算することになります。不動産の取引価格は、高額ですので不動産業者が自由に仲介手数料を決めてしまうと、消費者に不利益が及ぶおそれがあるため、宅建業法では、以下のように仲介手数料に上限を設けています。
上限を超えて仲介手数料を請求・受領することは宅建業法違反となりますので、注意が必要です。
直接取引とは、不動産業者が当事者からの委託を受けて不動産の仲介を行い、契約成立に向けて尽力していたにもかかわらず、委託者が不動産業者を排除して直接相手方と交渉し、契約を成立させることをいいます。このような直接取引は、委託者が仲介手数料の支払いを回避する手段として行われることが多いです。
仲介手数料は、不動産業者の仲介により売買契約が成立した場合に発生しますので、直接取引があった場合には仲介手数料を請求できるかどうかをめぐってトラブルになることがあります。直接取引における仲介手数料の請求の可否は、以下のような要素を踏まえて判断していきます。
・仲介契約の成否
・当事者が仲介業者を排除したといえるか
・媒介業務と契約成立との間の因果関係
・仲介報酬の算定
不動産売買の物件に関するトラブルで多いのが、物件の瑕疵によるトラブルです。物件の瑕疵とは、売買契約の目的物となった不動産について、種類・品質・数量に関して契約内容との不適合がある状態をいいます。不動産売買においては、以下のような瑕疵が問題になります。
このような瑕疵が存在すると、売主は、買主から契約不適合責任を追及されるおそれがあり、不動産を仲介した業者も説明義務違反を理由として損害賠償請求をされるリスクがあります。
不動産を売却する際には、売主は、買主に対して、土地の範囲や境界を明示する義務があります。不動産売買においては、土地の面積が売買価格の決定に大きな影響を与えるため、測量などにより境界を明確にすることが求められています。
不動産売買を仲介する不動産業者にも土地の境界を調査し、損害の発生を未然に防止すべき媒介契約上の義務がありますので、土地の境界があいまいなまま取引を進めると、トラブルが生じる可能性があります。
売買目的物である土地や建物に前所有者の私物が残されている場合には、残置物を誰が処分するのか、残置物の処分費用はどちらが負担するのかなど、残置物の扱いをめぐってトラブルが生じることがあります。
明らかに不用品であったとしても、仲介業者が勝手に処分をしてしまうと、所有者から損害賠償請求をされたり、器物損壊罪で処罰されるおそれもありますので、注意が必要です。
不動産取引では、売買契約書や重要事項説明書により契約条件が明示されることになります。しかし、契約書に通常記載される項目以外にも重要な事項がある場合には、特記事項として明記しておくことが大切です。
トラブルが生じた場合には、契約書に記載された内容が重視されますので、きちんと書面に残しておくようにしましょう。
不動産の仲介を行う不動産業者には、売主または買主に対する、説明義務が課されています。取引を成立させるために、当事者に不利になるような事項をあえて伝えなかったり、虚偽の内容を伝えたりすると、説明義務違反を理由として責任を追及されるリスクがあります。
有利・不利を問わず、物件に関する事項についてはしっかりと説明し、説明責任を尽くすことが大切です。
不動産売買に関するトラブルが生じると不動産業者にも多額の損害が生じるおそれがあります。そのため、不動産取引を進めるにあたって疑義が生じたときは、曖昧なまま進めてしまうのではなく、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
また、実際に不動産売買でトラブルが生じてしまったときでも、弁護士に相談すれば、被害を最小限に抑えることができます。
今回は、不動産売買の場面で生じるトラブルに関して解説しました。このようなトラブルを回避するためには専門家である弁護士のアドバイスが不可欠となりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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