共有不動産を売却するには、すべての共有者の同意が必要になります。
売買契約や所有権移転登記手続きなど売買手続きの重要な場面において、共有者全員が立ち会うことができればよいですが、遠方に居住している、仕事の都合がつかないなどの理由で立ち会いが難しいときは、委任状により手続きを進めることができます。
ただし、委任状により共有不動産の売買手続きを進める際には、いくつか注意すべきポイントがありますので、委任状の作成方法や注意点をしっかりと押さえておきましょう。
今回は、共有不動産の売却の際に必要になる委任状の作成方法と注意点について、不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
目次

共有不動産の売却は、「共有物の処分」に該当しますので、共有者全員の同意が必要になります。
共有不動産の売却時に、共有者全員が立ち会うことができれば、その場で売却の同意に関する意思確認ができますので、委任状は不要です。
売買契約に立ち会った共有者全員が売買契約書に署名・押印をすれば、共有不動産の売却を行うことができます。
共有者が複数人いる場合には、すべての共有者の都合を合わせて、売買契約に立ち会うのが難しいことがあります。
また、遠方に居住していたり、高齢で外出が難しい共有者がいる場合には、全員が売買契約の場に集まるのは現実的ではありません。
このようなケースでは、「委任状」を利用することで、すべての共有者が売買契約の場に同席していなくても、共有不動産の売却を行うことができます。
実際の共有不動産の売却の場面でも、共有者の中で代表者を決めて、その人が委任状に基づき売買契約を締結する、または弁護士や司法書士などの専門家に委任して売買契約を締結するケースが多いです。
不動産の売買で委任状が用いられるケースとしては、以下のようなケースがあります。
・忙しくて不動産を売却するための手続きに立ち会うことができないケース
・遠方にある不動産を売却するケース
・共有者のなかに海外滞在中の人がいるケース
・入院などの都合で決済に立ち会えないケース
・弁護士などの専門家に売却手続きを任せるケース

委任状は、特別な要式が定められているわけではありませんので、必要な情報が記載されていれば、基本的には当事者が自由に作成することができます。
一般的に、共有不動産の売却で使用する委任状に記載すべき事項としては、以下のような項目が挙げられます。

委任者および受任者の住所・氏名に関しては、本人の自筆であることが求められますが、それ以外の事項については、パソコンなどを利用して作成してもかまいません。
また、売買物件の表示項目については、不動産の登記事項証明書の内容をそのまま記載するようにしてください。
共有不動産を売却する際の委任状の作成にあたっては、以下のような書類が必要になります。


委任状を利用して共有不動産を売却する場合、「白紙委任状」を使用しないようにしてください。
白紙委任状とは、記載事項の一部が空欄になっている委任状のことをいいます。
このような白紙委任状は、委任者が後から委任事項を埋めることが予定されていますが、場合によっては白紙委任状を悪用して、委任者の意思に反した内容で共有不動産の売却が行われてしまう可能性があります。
委任状作成時には、委任状のすべての欄を埋めることができない事情があるかもしれませんが、できる限り委任事項を特定しておくことが大切です。
白紙委任状と同様に受任者に過度な権限を与えることも、トラブルの原因になります。
受任者に広範な権限を与えてしまうと、本来予定していなかったことまで委任状に基づいて行われてしまうリスクがあります。
このようなリスクを回避するためにも、委任事項はできる限り明確に定めておくことが大切です。
また、委任事項の末尾に「……その他一切の件」などと記載することもありますが、受任者による想定外の行為を防ぐのであれば、そのような記載も避けた方が賢明です。
捨印とは、契約書や委任状の余白部分にあらかじめ押しておく印鑑をいいます。
捨印は、文書の修正・訂正が必要になったときに、訂正印として利用できますので、委任者から訂正印をもらうことなく、受任者が文書の内容を修正・訂正することができます。
捨印があることにより、業務の効率化に寄与するというメリットがありますが、委任者が意図しない内容に書き換えられてしまうリスクがありますので、不動産売買のような高額な法律行為を委任する場合には避けた方がよいでしょう。
ただし、弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合には、そのような心配はありませんので、捨印を押しても問題ないといえるでしょう。
共有者のなかに認知症の人がいると、委任状を利用したとしても共有不動産の売却を行うことができません。
売買契約の委任をするには、本人に意思能力が備わっている必要がありますが、重度の認知症だと意思能力が欠如しているため、受任者に対して有効な授権をすることができません。
そのため、形式的に認知症の共有者から委任状を取得しても、そのような委任行為は無効ですので、売買契約も無効になってしまいます。
なお、共有者のなかに認知症の人がいるときは、成年後見制度を利用することで有効に売買契約を締結することが可能です。

共有不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要になりますが、共有持分であれば各共有者が単独で売却することができます。
そのため、共有不動産の売却に反対する相続人がいる場合には、共有持分の売却を検討してみるとよいでしょう。
ただし、共有持分のみの購入を希望する人は少ないため、共有持分の売却は、専門の不動産業者による買い取りが中心になります。
不動産が共有状態だと共有者間でさまざまなトラブルが生じるため、すぐにでも共有関係から離脱したいという方もいるかもしれません。
そのような場合には、共有持分の放棄を検討してみるとよいでしょう。
共有持分の放棄とは、共有者が自分の持分を放棄することで共有関係から離脱する方法です。
共有持分の放棄は、共有者が持分放棄の意思表示をするだけでできますので、他の共有者の意向とは関係なく手続きを行うことができます。
ただし、無償での放棄になる点に注意が必要です。
共有不動産の売却に反対している共有者がいる場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することも有効な手段となります。
共有物分割請求訴訟を提起すると、以下の方法から裁判所がもっとも適当と判断する方法を選択してくれますので、それにより共有状態を解消することが可能です。
・現物分割
・全面的価格賠償
・代金分割
ただし、共有物分割請求訴訟は、専門的知識や経験がなければ対応が困難ですので、自分たちだけで対応しようとせずに専門家である弁護士に依頼するのがおすすめです。
共有不動産を売却する際には、すべての共有者が集まるのが難しいときは、委任状を利用することで、共有者の一人を代表者として売買手続きを進めることができます。
しかし、共有者のなかに認知症の人がいたり、共有不動産の売却に反対する人がいるような場合には、専門家のサポートがなければ共有不動産の売却は困難といえるでしょう。
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