賃料増額が当事者同士の話し合いや調停で解決しないときは、裁判所に賃料増額請求訴訟を提起することになります。裁判では、最終的に裁判官が判決という形で賃料増額の可否とその金額を判断しますが、その際に参考にされるのが不動産鑑定士による鑑定結果です。
適正な賃料相場を把握するためにも、どのような方法で不動産鑑定が行われているのかを理解しておくとよいでしょう。
今回は、不動産鑑定により相当な賃料を算定する方法と具体的な裁判例を不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
目次
借地借家法では、以下の事情を考慮して、現行賃料が不相当になったときは、賃料の増額請求ができる旨定めています。
・租税その他負担の増額
・土地の価格の上昇その他の経済事情の変動
・近傍類似の土地の地代等との比較
・その他の事情
このような事情がある場合には、まずは当事者同士の話し合いにより、賃料の金額の増額を行うことになります。しかし、賃料が増額されると借地人によっては不利益となりますので、簡単に応じてくれないケースが多いです。そのような場合には、裁判所に賃料増額請求調停の申立てを行います。調停も話し合いの手続きですので、合意が得られなければ調停不成立となり、最終的には賃料増額請求訴訟により解決を図ることになります。
当事者同士の協議や調停は、基本的には話し合いの手続きですので、お互いの合意があれば増額後の賃料を自由に決めることができます。しかし、裁判では、裁判所が「相当な賃料」を判断することになりますが、その際に参考にされるのが不動産鑑定士による鑑定結果です。
基本的には、裁判所は不動産鑑定士が算定した賃料の金額をそのまま「相当な賃料」として認定しますので、賃料増額請求訴訟では、不動産鑑定士が算定する賃料額が重要となります。
不動産鑑定士が「相当な賃料」を算定する際の基準には、主に以下の4つの基準があります。
・利回り法
・スライド法
・賃貸事例比較法
・差額配分法
それぞれの基準には長所と短所がありますので、いずれか一つの方法を用いるだけでは適切な結論を導くことができないと考えられています。そのため、不動産鑑定では、一般的に複数の基準により算定された賃料を基準として、これらを加重平均するなどの調整を行うことで「相当な賃料」を導いています。このような方法を「総合方式」といいます。
なお、賃料増額請求における「相当な賃料」は、賃貸借契約が継続している場合の賃料(継続賃料)であり、新たに賃貸借契約を締結する場合の新規賃料とは異なる点に注意が必要です。
相当な賃料を算定する際の基準には、以下の4つの基準がありますので、以下で詳しくみていきましょう。
利回り法とは、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た金額に、必要諸経費などを加算して賃料を試算する手法です。基礎価格や必要諸経費などは、積算法に準じて求めます。
【計算式】
価格時点における基礎価格×継続賃料利回り+必要諸経費等
継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、以下の事情を総合的に比較考量して求めるものとされています。
スライド法とは、直近合意時点における純賃料に対して、その後の価格時点までの変動率を乗じて変動後の価格時点の純賃料を求め、これに価格時点における必要諸経費等を加算し、賃料を試算する手法です。
【計算式】
直近合意時点における純賃料×変動率+必要諸経費等
変動率は、直近合意時点から価格時点までの間の経済情勢等の変化に即応する変動分をあらわ数値であり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、以下の各種指数や整備された不動産インデックスなどを総合的に勘案して導きます。
・家賃指数
・市街地価格指数
・建物価格指数
・消費者物価指数
・卸売物価指数
・勤労者所得変動率
・地価公示価格変動率
賃貸事例比較法とは、近隣地域または同一需給圏内の類似地域に存する多数の事例を収集し、その中から適切な事例を選択して、これらに係る実際実質賃料に対して、必要に応じて事情補正と時点修正を行い、かつ、地域要因の比較および個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これにより賃料を試算する手法です。
継続賃料に賃貸事例比較法を用いる場合、継続している賃貸借から事例の収集・選択を行い、できる限り対象不動産に類似した事例を選択しなければなりません。その際には、以下の点に留意して行う必要があります。
・賃貸形式
・賃貸面積
・契約期間、経過期間、残存期間
・一時金の授受に基づく賃料内容
・賃料の算定の期間およびその支払い方法
・修理および現状変更に関する事項
・賃貸借等に供される範囲およびその使用方法
差額配分法とは、不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料または支払賃料と実際の実質賃料または支払賃料との間の差額を算出し、契約の内容、契約締結の経緯などを総合的に勘案して、その差額のうち賃貸人に帰属する部分を判定して得た額を実際の実質賃料または支払賃料に加減して賃料を試算する手法です。
【計算式】
(適正な実質賃料・支払賃料-実際の実質賃料・支払賃料)×1/2~1/4
【事案の概要】
東京都中野区にある普通建物所有を目的とする土地の賃貸借について、固定資産税等の2.8倍相当額とする旨の合意に基づき月額2万1632円だった賃料が月額3万1200円に増額された事例です。
【具体的な計算手法】
不動産鑑定士により本件土地の相当賃料が以下のように試算されました。
なお、継続地代の賃貸事例比較法については、各事例の契約内容が必ずしも明確でないことから適用を断念しています。
差額配分法、利回り法、スライド法には、一長一短がある一方で、相応の説得力があるため、各資料賃料を均等に重視することとし、各資料賃料を1:1:1の割合で平均して、相当な賃料を算出しました。
【事案の概要】
信用金庫に対する支店建物所有を目的とする土地の賃貸借契約について、従前の月額賃料が20万3000円だったものを、25万5300円に増額を認めた事例です。
【具体的な計算手法】
不動産鑑定士により本件土地の相当賃料が以下のように試算されました。
なお、継続地代の賃貸事例比較法については、各事例の契約内容が必ずしも明確でないことから適用を断念しています。
各方式の有する特性および各試料賃料の精度・性格・信頼性や相互の関係位置ならびに周辺継続地代の水準などを総合考慮した結果、差額配分法による試算賃料が優っていると判断し、以下の割合で加重平均を施すこととしています。
差額配分法:利回り法:スライド法=50:25:25
賃料増額請求をする際には、適正な賃料相場を把握することが大切です。
不動産鑑定士による「相当な賃料」の算定は、さまざまな基準を踏まえた複雑な計算方法となっていますので、知識や経験がない方では、適正な賃料相場を把握することは困難といえます。不動産問題に詳しい弁護士であれば、不動産鑑定士と連携して適正な賃料相場を把握することができますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
適正な賃料相場を下回っている場合には、賃料増額請求により賃料の増額が認められる可能性があります。このような場合、まずは借地人との交渉で賃料の増額を目指すことになりますが、借地人も簡単に増額に応じてくれず交渉が難航するケースもあります。
弁護士であれば地主の代わりに借地人との交渉を行うことができますので、専門的見地から相手を説得することで、交渉で解決できる可能性も高くなるでしょう。交渉による負担を少しでも軽減するためにも、弁護士への依頼がおすすめです。
借地人との交渉が決裂した場合、裁判所に賃料増額請求調停の申立てや賃料増額請求訴訟の提起が必要になります。
このような法的手段が必要なケースでは、地主個人では、負担が大きいといえますので、専門家である弁護士に対応を任せるべきでしょう。弁護士であれば専門的な法的手段についても適切に対応できますので、地主の要望をしっかりと反映させることが可能です。
当事者の合意や調停で賃料の増額をする場合には、どのような金額でも自由に定めることができます。しかし、裁判で賃料の増額を求める場合、裁判官が不動産鑑定士の鑑定結果に基づいて「相当な賃料」を算定します。そのため、裁判を視野に入れている場合には、不動産鑑定によりどの程度の増額が認められるかをあらかじめ把握しておくことが大切です。
そのためには、不動産問題に詳しい弁護士に相談する必要がありますので、賃料増額請求をはじめとした不動産問題を多数取り扱っているダーウィン法律事務所までまずはご相談ください。
まずお電話で相談希望を受付後、担当スタッフ、弁護士から折り返しいたします。
立場を明確にしていただく必要がありますので、ご連絡時、下記情報お伝えください