賃料の増額交渉は、地主と借地人との間でトラブルが生じやすいものの一つになります。借地人が素直に賃料の増額に応じてくれればよいですが、賃料の増額を拒否した場合にはどのように対処すればよいのでしょうか。
一定の要件を満たす場合、地主には賃料増額請求を行う権利がありますので、借地人が賃料の値上げを拒否していても、増額後の賃料を請求することができます。しかし、それを実現するには、調停や訴訟といった法的手続きが必要になる可能性もありますので、対処法などをしっかりと理解しておきましょう。
今回は、賃料増額請求を拒否された場合の対処法と賃料増額請求をする際の注意点についてわかりやすく解説します。
目次
借地人が拒否すると賃料の増額ができないと考える地主の方もいるかもしれません。
しかし、賃料増額請求は、地主からの一方的な意思表示によって効力が生じますので、そもそも借地人の同意は要件とはされていません。このような権利を「形成権」といいます。
すなわち、借地人が拒否したとしても、地主からの賃料増額請求により適正な賃料に変更されるという効果が生じるのです。
地主としては、現行の賃料の金額が不相当だと感じるときは、借地人に対して、賃料増額請求を行い、増額後の適正な賃料の支払いを求めることができます。
地主が借地人との交渉で賃料を増額する場合、以下のような流れで行います。
賃料増額請求は、地主から借地人に対する意思表示が借地人に到達することで効力が生じます。権利行使の方法については、法律上特に決まりがあるわけではありませんが、賃料増額請求の意思表示が借地人に到達したことを客観的に明確にするために配達証明付き内容証明郵便を利用するのが一般的です。
内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送付したかを証明することができる郵便で、配達証明をつけることで相手に届いた日付も証明することが可能になります。
いつから増額後の賃料を請求できるかは、非常に重要なポイントとなりますので、そのことを明確にするためにも必ず配達証明付き内容証明郵便を利用して権利行使を行うようにしましょう。
賃料増額請求をすることで、現行の賃料は適正な賃料に増額され、地主は増額後の賃料を請求する権利を得て、借地人は増額後の賃料を支払う義務を負います。
しかし、借地人が拒否している状態では、実際に増額後の賃料の支払いをしてもらうことはできませんので、当事者同士で話し合いをして、増額後の賃料の支払いを求めていく必要があります。地主としては、現行の賃料が不相当であることを客観的な資料を提示し、借地人に納得してもらえるよう説明していかなければなりません。
借地人が増額後の賃料の支払いに応じる態度を示したときは、お互いの合意内容を明確にするためにも、新たに借地契約書を締結し直すのがよいでしょう。
地主からの賃料増額請求により現行の賃料が適正な賃料に増額されるという効果が生じますが、増額後の金額に争いがあるような場合には、当事者同士の話し合いだけでは解決できない可能性があります。
そのような場合は、裁判所に賃料増額請求調停の申立てを行います。調停は、裁判のように勝ち負けを決める手続きではなく、裁判所の調停委員が関与して、当事者同士の話し合いにより円満な解決を目指す手続きです。
調停では、調停委員を介して話し合いが進められますので、当事者同士が顔を合わせて話すことはなく、言い争いになるなどの心配はありません。調停委員からも適正な賃料相場についてのアドバイスがありますので、それを踏まえて協議を行えば、合意に至る可能性も十分にあるといえるでしょう。
調停で合意に至ったときは、調停成立となり、合意内容が調停調書に記載されます。調停調書は、裁判所の判決と同様の効力を有していますので、借地人が支払いに応じてくれなかったとしても、強制執行の申立てをして借地人の財産から強制的に回収することができます。
賃料増額請求調停は、あくまでも話し合いの手続きですので、増額後の賃料について借地人の合意が得られないときは、調停不成立となり調停手続きは終了となります。
このような場合、地主は、裁判所に賃料増額請求訴訟を提起する必要があります。訴訟では、適正な賃料額を裁判所の判決により確定することになりますが、適正な賃料を定めるにあたっては、不動産鑑定士による鑑定結果が重視されます。
裁判所の判決により賃料の増額が認められた場合、借地人は、不足する賃料額を支払う義務を負うとともに、不足額について年1割の利息の支払い義務も生じます。
借地契約のなかに「一定期間、賃料を増額しない」という賃料不増額特約が設けられていることがあります。
借地借家法では、賃料不増額特約がある場合、その合意にしたがうものとされていますので、地主は、賃料不増額特約で定められた期間、賃料の増額を求めることはできません。現行賃料が不相当といえる事情があったとしても、基本的には賃料不増額特約が優先しますので、賃料増額請求はできなくなります。そのため、賃料不増額特約を設ける場合、将来、経済状況の変動が生じても賃料の増額請求ができないというリスクが生じることを十分に理解した上で対応するようにしてください。
ただし、賃料不増額特約の期間が相当長期にわたるものであり、その間に経済的事情が激変したようなケースでは、特約の拘束力をそのまま認めると著しく公平に反するといえますので、例外的に賃料の増額請求が認められることもあります。
地主による賃料増額請求により、現行賃料が適正な賃料に増額されるという効果が生じます。しかし、増額された賃料の金額に争いがある場合は、借地人は、賃料の増額を正当とする裁判が確定するまでの間、相当と認める賃料を支払えば足りるとされています(借地借家法11条2項)。
そのため、借地人が賃料の増額を拒否し、現行の賃料と同額の支払いを続けている限り、借地人の債務不履行とはなりませんので、地主は借地契約の解除をすることはできません。
ただし、借地人が現行の賃料が公租公課の額を下回ること知っていた場合、借地人がこの金額を主観的に相当と考えていたとしても、債務の本旨にしたがった履行とはいえず、債務不履行を理由に解除できる可能性があります。
賃料増額請求により現行賃料は、適正な賃料に増額されますが、増額後の賃料に争いがある場合は、不動産鑑定士による不動産鑑定が必要になります。
裁判でも不動産鑑定士による鑑定結果が重視されますので、適正な賃料を把握するためにも不動産鑑定士に鑑定を依頼することも検討してみましょう。不動産鑑定には、費用がかかりますが、適正な賃料を明らかにする客観的資料があった方が任意の交渉で解決できる可能性が高くなるといえます。
借地に賃料増額請求をしても拒否されてしまうと、その時点で賃料の増額を諦めてしまう地主の方もいるかもしれません。
しかし、賃料増額請求は、借地人に意思表示が到達することで効力が生じる形成権ですので、賃料の増額にあたって借地人の同意は必要ありません。拒否されたとしても賃料増額の効力は生じますので、どのように対応すればよいかわからないという場合は、まずは弁護士に相談してアドバイスしてもらうとよいでしょう。
賃料の増額を拒否する借地人との対応は、弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼をすれば弁護士が地主に代わって借地人との交渉を担当することができますので、地主の方の負担は大幅に軽減するでしょう。また、弁護士が客観的な資料に基づき適正な賃料を示しながら交渉することで、借地人の賃料の増額に応じてくれる可能性がありますので、任意の交渉での解決も期待できます。
借地人との間で、増額後の賃料の金額について争いがあり、交渉での解決が困難なときは、調停や裁判といった法的手段が必要になります。
法的知識や経験の乏しい地主個人では、このような法的手段に対応するのは困難だといえますので、弁護士に対応を任せるのがおすすめです。弁護士であれば、交渉から引き続き調停や裁判の対応をしてくれますので、最後まで安心して任せることができます。
賃料増額請求は、法的には形成権と呼ばれる権利ですので、賃料増額の意思表示が借地人に到達することで賃料増額の効力が生じます。しかし、借地人が増額後の賃料の支払いに応じてくれないときは、交渉、調停、裁判により増額後の賃料の支払いを求めていく必要がありますので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
ダーウィン法律事務所では、賃料増額請求のトラブルをはじめとした不動産問題に関する豊富な解決実績がありますので、賃料増額請求のトラブルでお悩みの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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