不動産仲介において「おとり広告」は業界の信用を大きく損なう行為であり、法律で厳しく規制されています。それにもかかわらず、集客目的で成約済み物件を掲載し続けたり、実在しない物件情報を広告に出す事例は後を絶ちません。このようなおとり広告は、消費者トラブルの原因となるだけでなく、宅地建物取引業法や景品表示法違反として、業務停止や免許取消しといった重大な行政処分につながる危険があります。
今回は、不動産仲介におけるおとり広告の定義や典型的な手法、禁止されている理由、関連する法規制などを不動産問題に詳しい弁護士が解説します。
目次

「おとり広告」とは、実際には紹介・契約できない物件情報を広告に掲載し、顧客を店舗やサイトに誘引する行為を指します。問い合わせを受けた際には「すでに成約済み」「直前に契約が入った」と説明し、別の物件を案内するケースが典型例です。
これは、消費者の判断を不当に操作する手法として、宅地建物取引業法や景品表示法で禁止されています。
不動産業界におけるおとり広告の代表的なパターンは次のとおりです。

いずれの手法も「実際には提供できない情報で顧客を引きつける」点が共通しており、消費者保護の観点から厳しく規制されています。
通常の不動産広告は、物件の現況や条件を正確に伝えることを目的としています。これに対し、おとり広告は「存在しない情報」や「事実と異なる条件」を意図的に掲載する点で大きく異なります。
なお、更新漏れや誤記といった過失による誤掲載であっても、消費者に誤解を与えることから行政指導や改善命令の対象になる可能性があります。さらに、意図的に行った場合は業務停止や免許取消しといった厳格な処分が下されるため、広告管理には細心の注意が必要です。

おとり広告は、顧客に対して、実際には選べないはずの物件が存在していると誤認させ、不当に意思決定を操作します。消費者は、限られた時間や予算の中で真剣に物件を探しているため、虚偽の情報によって無駄な手間や費用を負担させられることは重大な不利益です。
法律が規制する大きな理由のひとつは、このような「情報の非対称性」から生じる消費者被害を防ぐ点にあります。
健全な不動産市場は、各業者が正確な情報を提示し、その中から顧客が自由に選択できる環境によって成り立ちます。もし一部の業者が虚偽の広告で顧客を集めれば、真面目に事業を行っている業者との間で不公平な競争が生じます。
これを放置すれば、業界全体の健全な競争秩序が崩れ、結果的に市場の信頼性も低下してしまいます。そのため、法規制によっておとり広告を排除する必要があるのです。
おとり広告が横行すると、「不動産広告は信用できない」という認識が消費者の間に広がり、業界全体の評判が下がります。これは一業者の問題にとどまらず、誠実に営業している企業にもマイナスの影響を及ぼします。
結果として、顧客の不信感が強まり、契約機会の減少や法規制強化といった形で業界全体に跳ね返ってくる可能性があります。業者にとっても自社の問題だけでは済まない重大なリスクであることを認識する必要があります。

宅地建物取引業法(宅建業法)は、不動産広告の適正化を目的とし、虚偽の表示や誤解を招く広告を禁止しています。
具体的には、宅建業法32条に基づき「誇大広告の禁止」が規定されており、存在しない物件や事実と異なる条件を広告に出すことは違反にあたります。
また、違反が認められれば、都道府県知事や国土交通大臣からの指導・業務停止命令・免許取消しといった厳しい処分が下される可能性があります。
景品表示法は、消費者に誤認を与える表示や過大な景品提供を規制する法律です。不動産広告もこの対象となり、事実と異なる条件を表示した場合は「不当表示」として処分を受けることがあります。
たとえば「実際より著しく有利な条件を表示する」ことは景品表示法違反に該当します。国土交通省や都道府県だけでなく、消費者庁も規制権限を持っており、幅広い監督下にある点を意識する必要があります。
おとり広告が発覚すると、監督官庁である都道府県や国土交通省、場合によっては消費者庁が調査を行い、以下のような対応が取られることがあります。

これらの処分は公表されるケースが多いため、信用失墜や顧客離れなど、法的リスクにとどまらない経営上のダメージも避けられません。

もっとも悪質な例が、存在しない物件を広告に出すケースです。
たとえば、実際には建物が存在しない住所や現実には販売・賃貸されていない条件の物件を「好条件の掘り出し物」として掲載する手口です。これは完全な虚偽表示にあたり、業務停止や免許取消の対象となる重大な違反です。
実務上多いのがこのケースです。すでに成約済みで紹介できない物件を広告に残したままにし、問い合わせてきた顧客に「その物件はちょうど成約してしまった」と説明して、別の物件を案内する方法です。
広告更新の遅れとして説明する業者もありますが、意図的に残している場合は「おとり広告」と見なされ、行政処分につながります。
事実と異なる条件を「見栄えよく」修正するケースも典型例です。
このような誤認を招く表現は、宅建業法の誇大広告禁止規定や景品表示法違反に該当し得ます。

もっとも典型的なのが宅建業法に基づく行政処分です。
これらの処分は、監督官庁のウェブサイトや報道で公表されるため、信用失墜の影響も避けられません。
宅建業法違反には刑事罰が科される可能性もあります。虚偽広告の故意性が強く認められた場合、罰金刑や拘禁刑が適用されることもあり、企業だけでなく役員や従業員個人の責任が問われる場合があります。
また、景品表示法違反では「課徴金納付命令」によって、売上高に応じた多額の課徴金を支払う義務が生じることもあります。
おとり広告によって顧客が損害を被った場合、民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。
たとえば「虚偽の条件を信じて契約し、結果として予定外の費用を負担した」といった場合には、損害賠償や契約解除の対象となります。集団訴訟に発展すれば、多額の賠償責任を負うリスクも否定できません。
行政処分や裁判に至らなくとも、「おとり広告を行った」という事実だけで企業ブランドは大きく損なわれます。
こうした信用リスクは、一度失った信頼を取り戻すのが非常に難しく、長期的な経営ダメージとなります。

広告を出稿する際には、以下の点を最低限確認する必要があります。
これらをチェックリスト化し、社内ルールとして運用することで「誤記か意図的な虚偽か」疑われるリスクを減らすことができます。
不動産広告を扱う社員が、宅建業法や景品表示法の規制を理解していなければ、無意識のうちに違反につながる表現を行ってしまう可能性があります。
こうした体制を整えることで、個人の判断に依存しない組織としての法令遵守を実現することができます。
新規の広告キャンペーンや集客効果を狙った表現を使用する際には、弁護士によるリーガルチェックを受けることが有効です。
法律専門家の目を通すことで、リスクの早期発見とトラブル予防が可能になります。
不動産仲介におけるおとり広告は、短期的な集客効果があるように見えても、法律違反として行政処分・課徴金・損害賠償、そして企業信用の失墜といった深刻なリスクを伴います。また、広告管理体制の不備や社員の知識不足によって、知らぬ間に違反にあたる表現を掲載してしまうケースも少なくありません。
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