不動産仲介におけるおとり広告とは? 違法性・規制・トラブル時の対処法を弁護士が解説

不動産仲介において「おとり広告」は業界の信用を大きく損なう行為であり、法律で厳しく規制されています。それにもかかわらず、集客目的で成約済み物件を掲載し続けたり、実在しない物件情報を広告に出す事例は後を絶ちません。このようなおとり広告は、消費者トラブルの原因となるだけでなく、宅地建物取引業法や景品表示法違反として、業務停止や免許取消しといった重大な行政処分につながる危険があります。

今回は、不動産仲介におけるおとり広告の定義や典型的な手法、禁止されている理由、関連する法規制などを不動産問題に詳しい弁護士が解説します。

1、不動産仲介における「おとり広告」とは


弁護士
荒川 香遥
不動産仲介の広告活動は、顧客との信頼関係を築くために不可欠です。しかし、一部の業者によって、実際には契約できない物件や条件を掲載して顧客を誘引する「おとり広告」が行われてきました。これは一時的な集客につながるかもしれませんが、法令違反であるだけでなく、業界全体の信用を失墜させる重大なリスクを伴います。以下では、おとり広告の定義や典型的な手法、通常の広告との違いを説明します。

(1)おとり広告の定義

「おとり広告」とは、実際には紹介・契約できない物件情報を広告に掲載し、顧客を店舗やサイトに誘引する行為を指します。問い合わせを受けた際には「すでに成約済み」「直前に契約が入った」と説明し、別の物件を案内するケースが典型例です。

これは、消費者の判断を不当に操作する手法として、宅地建物取引業法景品表示法で禁止されています。

(2)不動産広告で典型的に用いられる手法

不動産業界におけるおとり広告の代表的なパターンは次のとおりです。

いずれの手法も「実際には提供できない情報で顧客を引きつける」点が共通しており、消費者保護の観点から厳しく規制されています。

(3)一般的な広告との違い

通常の不動産広告は、物件の現況や条件を正確に伝えることを目的としています。これに対し、おとり広告は「存在しない情報」や「事実と異なる条件」を意図的に掲載する点で大きく異なります。

なお、更新漏れや誤記といった過失による誤掲載であっても、消費者に誤解を与えることから行政指導や改善命令の対象になる可能性があります。さらに、意図的に行った場合は業務停止や免許取消しといった厳格な処分が下されるため、広告管理には細心の注意が必要です

2、おとり広告が禁止されている理由


弁護士
荒川 香遥
おとり広告は、企業としての責任問題にとどまらず、消費者の信頼や業界全体の健全性を大きく揺るがす行為です。そのため、宅地建物取引業法や景品表示法などの法律によって厳しく禁止されています。以下では、おとり広告が規制される背景を「消費者保護」「公正な競争秩序」「業界全体の信頼」という三つの観点から解説します。

(1)消費者保護の観点

おとり広告は、顧客に対して、実際には選べないはずの物件が存在していると誤認させ、不当に意思決定を操作します。消費者は、限られた時間や予算の中で真剣に物件を探しているため、虚偽の情報によって無駄な手間や費用を負担させられることは重大な不利益です。

法律が規制する大きな理由のひとつは、このような「情報の非対称性」から生じる消費者被害を防ぐ点にあります

(2)公正な競争秩序維持の必要性

健全な不動産市場は、各業者が正確な情報を提示し、その中から顧客が自由に選択できる環境によって成り立ちます。もし一部の業者が虚偽の広告で顧客を集めれば、真面目に事業を行っている業者との間で不公平な競争が生じます。

これを放置すれば、業界全体の健全な競争秩序が崩れ、結果的に市場の信頼性も低下してしまいます。そのため、法規制によっておとり広告を排除する必要があるのです。

(3)信頼を損なう業界全体への影響

おとり広告が横行すると、「不動産広告は信用できない」という認識が消費者の間に広がり、業界全体の評判が下がります。これは一業者の問題にとどまらず、誠実に営業している企業にもマイナスの影響を及ぼします

結果として、顧客の不信感が強まり、契約機会の減少や法規制強化といった形で業界全体に跳ね返ってくる可能性があります。業者にとっても自社の問題だけでは済まない重大なリスクであることを認識する必要があります。

3、おとり広告に関する法律と規制


弁護士
荒川 香遥
おとり広告は、単なる不適切な宣伝ではなく、法令で明確に禁止された違法行為です。不動産仲介業者は「宅地建物取引業法」を中心に、「景品表示法」など複数の法律の規制を受けます。また、違反が発覚した場合には、行政指導や業務停止といった重い処分につながる可能性があります。以下では、不動産仲介業者が最低限理解しておくべき法律と規制の仕組みを説明します。

(1)宅地建物取引業法による規制

宅地建物取引業法(宅建業法)は、不動産広告の適正化を目的とし、虚偽の表示や誤解を招く広告を禁止しています。

具体的には、宅建業法32条に基づき「誇大広告の禁止」が規定されており、存在しない物件や事実と異なる条件を広告に出すことは違反にあたります

また、違反が認められれば、都道府県知事や国土交通大臣からの指導・業務停止命令・免許取消しといった厳しい処分が下される可能性があります。

(2)不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)との関係

景品表示法は、消費者に誤認を与える表示や過大な景品提供を規制する法律です。不動産広告もこの対象となり、事実と異なる条件を表示した場合は「不当表示」として処分を受けることがあります。

たとえば「実際より著しく有利な条件を表示する」ことは景品表示法違反に該当します。国土交通省や都道府県だけでなく、消費者庁も規制権限を持っており、幅広い監督下にある点を意識する必要があります。

(3)行政処分・指導の仕組み

おとり広告が発覚すると、監督官庁である都道府県や国土交通省、場合によっては消費者庁が調査を行い、以下のような対応が取られることがあります。

これらの処分は公表されるケースが多いため、信用失墜や顧客離れなど、法的リスクにとどまらない経営上のダメージも避けられません

4、おとり広告の典型例と事例


弁護士
荒川 香遥
おとり広告は、「誇大広告」「虚偽広告」として法律で禁止されていますが、実務上は巧妙な形で行われることがあります。以下では、典型的な手法と実際の行政処分事例を確認しておきましょう。

(1)実際には存在しない物件を掲載するケース

もっとも悪質な例が、存在しない物件を広告に出すケースです。

たとえば、実際には建物が存在しない住所や現実には販売・賃貸されていない条件の物件を「好条件の掘り出し物」として掲載する手口です。これは完全な虚偽表示にあたり、業務停止や免許取消の対象となる重大な違反です。

(2)成約済み物件を削除せずに集客に利用するケース

実務上多いのがこのケースです。すでに成約済みで紹介できない物件を広告に残したままにし、問い合わせてきた顧客に「その物件はちょうど成約してしまった」と説明して、別の物件を案内する方法です。

広告更新の遅れとして説明する業者もありますが、意図的に残している場合は「おとり広告」と見なされ、行政処分につながります。

(3)条件を誇張・偽装するケース

事実と異なる条件を「見栄えよく」修正するケースも典型例です。

  • ・「駅徒歩5分」と記載しながら、実際には10分以上かかる
  • ・「築浅物件」としながら、実際には築年数が大幅に経過している
  • ・管理費や共益費を含まない金額を「月額賃料」として表示する

このような誤認を招く表現は、宅建業法の誇大広告禁止規定や景品表示法違反に該当し得ます。

5、おとり広告を行った場合のペナルティ


弁護士
荒川 香遥
おとり広告は宅建業法や景品表示法で禁止されているため、違反が判明すると法的にも経営的にも深刻なペナルティを受ける可能性があります。処分内容は、単なる「注意」にとどまらず、業務停止や免許取消しといった事業継続に直結する厳しいものです。以下では、おとり広告によって科される代表的なペナルティを説明します。

(1)行政処分(業務停止・免許取消しなど)

もっとも典型的なのが宅建業法に基づく行政処分です。

  • ・業務停止処分:一定期間、宅地建物取引業としての営業活動が禁止される。期間中は新規契約ができず、経営に大きな打撃となる。
  • ・免許取消処分:宅建業者としての資格を失い、事業継続自体が不可能になる。

これらの処分は、監督官庁のウェブサイトや報道で公表されるため、信用失墜の影響も避けられません

(2)刑事罰や罰金の可能性

宅建業法違反には刑事罰が科される可能性もあります。虚偽広告の故意性が強く認められた場合、罰金刑や拘禁刑が適用されることもあり、企業だけでなく役員や従業員個人の責任が問われる場合があります。

また、景品表示法違反では「課徴金納付命令」によって、売上高に応じた多額の課徴金を支払う義務が生じることもあります。

(3)民事上の損害賠償責任

おとり広告によって顧客が損害を被った場合、民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。

たとえば「虚偽の条件を信じて契約し、結果として予定外の費用を負担した」といった場合には、損害賠償や契約解除の対象となります。集団訴訟に発展すれば、多額の賠償責任を負うリスクも否定できません。

(4)企業の信用失墜リスク

行政処分や裁判に至らなくとも、「おとり広告を行った」という事実だけで企業ブランドは大きく損なわれます。

  • ・顧客からの不信感による契約数の減少
  • ・ネット上での評判悪化(口コミ・SNS拡散)
  • ・他社との取引停止や提携解消

こうした信用リスクは、一度失った信頼を取り戻すのが非常に難しく、長期的な経営ダメージとなります

6、不動産業者が注意すべきコンプライアンス


弁護士
荒川 香遥
おとり広告を防止するには、単に「違反しないよう気を付ける」という意識だけでは不十分です。広告掲載前のチェック体制、従業員への教育、専門家によるリーガルチェックなど、会社としてのコンプライアンス体制を整えることが欠かせません。以下では、不動産仲介業者が実務で押さえておくべきポイントを紹介します。

(1)広告掲載時に確認すべきチェックポイント

広告を出稿する際には、以下の点を最低限確認する必要があります。

  • ・掲載物件が現在も紹介可能な状態か(成約済みではないか)
  • ・住所・間取り・築年数・賃料・管理費などの基本情報が正しいか
  • ・「駅徒歩〇分」などの表記が実測や公的資料に基づいているか
  • ・追加費用や条件を不当に省略していないか
  • ・写真や図面が実際の物件と乖離していないか

これらをチェックリスト化し、社内ルールとして運用することで「誤記か意図的な虚偽か」疑われるリスクを減らすことができます

(2)社内研修や広告管理体制の整備

不動産広告を扱う社員が、宅建業法や景品表示法の規制を理解していなければ、無意識のうちに違反につながる表現を行ってしまう可能性があります。

  • ・定期的なコンプライアンス研修の実施
  • ・広告担当者と営業担当者の連携強化
  • ・広告審査を行う社内部署の設置
  • ・ITシステムを活用した広告自動更新・削除の仕組み導入

こうした体制を整えることで、個人の判断に依存しない組織としての法令遵守を実現することができます

(3)弁護士による事前リーガルチェックの活用

新規の広告キャンペーンや集客効果を狙った表現を使用する際には、弁護士によるリーガルチェックを受けることが有効です。

  • ・広告表現が宅建業法や景品表示法に抵触しないか
  • ・過去の行政処分事例と類似していないか
  • ・消費者から苦情が入る可能性が高い表現ではないか

法律専門家の目を通すことで、リスクの早期発見とトラブル予防が可能になります。

7、まとめ

不動産仲介におけるおとり広告は、短期的な集客効果があるように見えても、法律違反として行政処分・課徴金・損害賠償、そして企業信用の失墜といった深刻なリスクを伴います。また、広告管理体制の不備や社員の知識不足によって、知らぬ間に違反にあたる表現を掲載してしまうケースも少なくありません。

ダーウィン法律事務所では、不動産業者向けに広告表現のリーガルチェックやコンプライアンス体制構築のサポートを行っています。トラブルを未然に防ぎ、顧客からの信頼を守るためにも、ぜひ当事務所までご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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