賃貸借契約書には、いまなお「賃貸人は、賃借人が、何か一つでも違反を犯した場合、催告を行うことなしに、これを解除できる」様な条項が定められていることがあります。これを無催告解除特約といいます。
そこで、家賃滞納にかかわらず、賃借人が何か、約束を破ったときに、無催告解除特約がある場合、賃貸人の自由な判断で解除できるのでしょうか。無催告解除の有効性について考えてみます。
まず、賃貸借契約というのは、売買のように一度で終わる取引ではなく、長いときには数十年の関係を築く法律行為といえます。このような短期間で終わることが想定されていない契約のことを「継続的契約」といいます。そして、賃貸借契約を含む継続的契約の場合、契約当事者の相互の信頼関係を前提に契約関係が成り立っているため、この信頼が破壊されたといえる程度の事情がないと解除はできないと考えられています。
話はそれますが、継続的契約の典型例が「結婚」です。結婚という行為は、ローマ法時代から由来する夫婦の継続的契約と考えられていますので、例えば、単なる性格の不一致程度では、婚姻契約の解除(すなわち「離婚」)はできません。相互の信頼関係を破壊する程度のことがないと離婚はできないのです。
この点は、「何か月の家賃滞納で立ち退きが出来ますか」をご参考に頂ければと思いますが、裁判例等と踏まえると、居住用住居の場合には、滞納期間は2か月程度から、と言われています。
裁判所は、無催告解除特約があっても、解除前に催告を行ったにもかかわらず支払わなかったという点をおもくみて、信頼関係の破壊があると考えている思われます。
したがって、無催告解除特約があり、賃料滞納が相当期間発生している場合でも、催告は行うべきといえます。
以上の通りですので、例えば「賃料を1か月でも滞納したら、催告をすることなく解除する」という契約条項があっても、信頼関係の破壊に足りる程度の期間の滞納と催告、という2点が整わないと解除の有効性が問われることとなります。
これまでご説明したとおり、賃貸借契約はオーナーと入居者の信頼関係を前提とする継続的契約のため、これを破壊する程度の事情がなければ、解除はできません。
しかし、入居者側に誰がどう見てもこれはアウトといえるような事情(これを、法律家は、背信性が顕著と表現したりします。)があるような例外的な場合に催告を行うことなく、解除が認められるケースがあります。
ただし、賃料滞納を理由とする無催告解除の事例はかなり限られており、ほとんどのケースでは、例えば、無断で居室を第三者に貸してしまった場合(無断転貸)や、居住用として賃貸借契約を結んだのに、実際には風俗店を営んでいたなどの場合(用法違反)などの極端なケースに限られております。
むしろ、11か月も家賃滞納していたケースでも、無催告解除を認めなかった最高裁判所の裁判例もあります(最高裁昭和35年 6月28日判決)。
以上の通り、無催告解除条項があるからといって、オーナー側のさじかげんで、解除ができるわけではありません。
何度も催告をしてその都度、遅れながら払われたり、分割となったりして、このような入居者に疲弊しているオーナー様からは、もう無催告での解除を行いたいというご相談も寄せられます。しかし、賃料滞納していても、催告を行ったことによって、支払われれば、仮に滞納の事実が何度も積み重なったとしても、結果として賃料は払われているので裁判所は賃貸借契約の解除は認めないでしょう。
まずは、立ち退きを考えられた場合には、お気軽にご相談いただければと思います。